正午すぎ、ラッチャダーピセーク1街路にあるサービスアパートメント、タナタウィーパレスの一室で目を覚ました。メール友達でタンマサート大学マスコミ学部に通っているアップルと、正午にワールドトレードセンターで待ち合わせをしていたが、昨晩、ロビーにいた女性と夜を徹して話し込み、午前8時に就寝したため、時間どおりに起きることはできなかった。
大急ぎで身支度を調えてから、銀行の窓口で日本から持ってきた日本円をタイバーツに両替し、ペッブリー18街路にあるアパート Venezia Residence へ行って入居の手続を済ませた。ロビーにいるオペレーターと呼ばれている管理会社の職員に、1ヶ月分の家賃8,000バーツのほか、家賃の2ヶ月分にあたる16,000バーツから昨日前払いした1,000バーツを差し引いた15,000バーツを保証金として支払い、賃貸借契約書にサインした。賃貸借契約書にはパスポートのコピーを添付することになっていたが、事前に用意しておらず、オペレーターの事務所にコピー機がなかったため、来週中に用意して別途提出することになった。
その後、大学時代の先輩を新居に残して、部屋を出た。すでに待ち合わせの時刻から1時間半も遅れていたので、Venezia Residence から3分ほど歩いたところにあるパヤータイ通りまで行き、そこで、タイではモーターサイと呼ばれているバイクタクシーを拾い、相場の約2倍にあたる60バーツを支払うからワールドトレードセンターまで急行するようにと依頼をして、バイクの後部シートに飛び乗った。
午後1時半、ラーチャダムリ通りにあるワールドトレードセンターに到着した。待ち合わせの場所には、アップルのほか、アップルのクラスメイトのエーンが来ていた。とりあえず、まだ朝食を食べていなかったので、ビッグマックセットを注文した。
まず、ワールドトレードセンターに併設されている日系百貨店の伊勢丹へ行って、5階にある家電売場で変圧器を購入した。日本で使っていたお気に入りのドライヤーをタイでも使いたかったし、海外別送品としていま日本から輸送途中にある電気製品がどれも100ボルトの電圧でないと使えない。購入したのは、漏電遮断機が搭載されていないタイプの容量2000ワットの変圧器で、価格は1,785バーツだった。売場の店員によると、日本で買うよりかなりお買い得という話だった。
ラーチャダムリ通りにあるワールドトレードセンターからプララームサーム通り(ラーマ3世通り)までタクシーで移動し、道路の反対側にある大型スーパーのテスコロータスへ行くために歩道橋を横断していたところ、電気が通っている送電線が手の届く位置に張られていることに気がついた。
「この電線って、ものすごく危険じゃない? こんな状態で大丈夫なの?」
「えっ?これって普通だよ。どこもこんなカンジだと思うけど……」
「そういえば、タイの行政機関は、どうして路上にたくさんいるの犬を処分しないの?日本では、見つけ次第すぐに捕まえて殺処分にしているんだけど」
「タイでも処分はしているけれど、予算が足りないようで十分にはできてないみたいね」
タイは、根本的な部分で、日本とはものすごく違っている。特に、安全衛生に関する基準については、それこそ隔世の感すらある。けれども、手の届く位置にある電線には自分で気をつけていればいいのだし、食品衛生についても自分で気をつけていればきっと大丈夫、だと思う。そう考えてみると、日本の基準が少しオーバーすぎるような気もしてきた。
つぎに、プララームサーム通りにあるテスコロータスで、当面の生活で必要となりそうな消費財を全部で24点、合計5,120バーツ分購入した。それらが入っている買い物袋を持ったまま、そこから1.5キロ離れたナラーティワートラーチャナカリン通りにあるショッピングセンターの Makro へ行って、それぞれフィリップス製の21インチ型ブラウン管テレビを12,290バーツ、三菱電機製の冷凍冷蔵庫を4,880バーツ、大宇電子製の洗濯機を9,990バーツ、勉強机を1,790バーツ、椅子を1,429バーツで購入した。きょう入居したばかりのアパート Venezia Residence にも、椅子が1脚だけ標準で備え付けられているが、プラスチック製の簡易的なもので、机に向かって勉強をする目的ではとても使えそうになかった。
買い物をしているあいだ、ずっと店員が「全部で30,000バーツなんだよなぁ……」とつぶやいていた。聞くところによると、タイ人大卒者の初任給が9,000バーツから13,000バーツぐらいしかないというから、売り場で働いているこの従業員の賃金はそれ以下なのかもしれない。
会計が終わり、サービスカウンターへ行って発送の手続をしようとしたところ、配送サービスがないことを知らされて困り果てた。やむなく、店の前で客待ちをしていたタイではトゥックトゥックと呼ばれている、二輪車を改造して人貨用の荷台を増設しただけの三輪車を3台呼んで、アップルに頼んで料金を交渉してもらったところ、3台合計で500バーツを支払えば、ペッブリー18街路までの約10キロの道のりを運んでくれることになった。
ペッブリー18街路にあるアパート Venezia Residence 6階の自室に戻ってから、アップルがテレビや冷蔵庫の設置を手伝ってくれた。そうこうしているうちに深夜になり、アップルが家へ帰るための終バスがなくなってしまった。友人に現金を渡すのは良くないと思って、午前零時頃に高架電車ラーチャテーウィー駅の高架下からアップルとふたりでタクシーに乗って、南西方向へ30キロほど行ったところにあるエーガチャイ119街路にあるアップルの実家まで送り届け、そのままペッブリー18街路にある自宅まで戻ってきた。タクシーの料金は330バーツだった。東京でこの距離をタクシーで移動したら20,000円ぐらいかかるだろうから、タイにおけるタクシーの運賃は日本の公共交通機関と同じぐらいだと考えておいて良さそうだ。とにかく、深夜まで引っ越しのお手伝いをしてくれた友人には感謝している。