いま目の前に横たわっている問題を、ただ先送りにしているだけでは何の解決にもならない。そればかりか、後日そのツケに利子まで付けて支払わされることになるかもしれない。
エーンの親友であるアップルは僕に好意を抱いているようなので、エーンと半同棲の状態にあることを伏せている。この判断については自分でもヤバいのではないかと思っているが、エーンとアップルの関係が破綻してしまったところで自分では事態を収拾することができないため、こうするほかに選択の余地がなかった。
早朝、エーンと同じタンマサート大学に通っているアップルが、ペッブリー18街路にある住まい Venezia Residence 6階の自室の前に事前の予告なく現れて、扉をノックしてから携帯電話のプッシュボタンを押したところ、エーンの携帯電話の着信音が枕元にあるナイトテーブルの上でけたたましく鳴りはじめた。この部屋の扉には敷居の段差がなく、扉の下の部分に隙間が空いている構造になっているため、扉の前に立って聞き耳を立てていれば、室内の音はほぼ完全に聞き取ることができる。エーン本人が室内にいることについてはともかく、少なくともエーンの携帯がこの部屋にあることだけは間違いなく知られてしまった。
こんな無防備な状態で何かしようと足掻いたところで、事態を悪化させることはあっても、改善するとは思えない。とりあえず、アップルが部屋の前から立ち去るまでのあいだ、エーンとふたりで息を押し殺してじっと待ち続けた。しばらくして、アップルは土産として持ってきた菓子をアパートのオペレーターに預けて帰っ行った。今回はなんとかやり過ごせたけれど、このままではいつか修羅場を迎えることが目に見えている。
午後、アソークモントリー通りにある日本大使館の領事部へ行って、おととい12月8日に提出した在留届が受理されていることを確認してから、日本の国際運転免許証をタイの運転免許証へ切り替えるときに必要となる「在留証明」の発行を申請した。