夜のオンナの嘘ホント

「タイ人を信用するべからず。タイ人を見たらみんな嘘つきの泥棒と思え」

――この言葉を最初に言ったのはタイ民俗学の研究者なのか、それとも痛い目にあった買春オヤジなのか?

もしこの主張が不特定多数の日本人に向けて発せられている警鐘であるのなら、おおむね賛成できる。売春婦は日々の麻薬のこと(特別な容器を使ってヤーバーをブクブク吸引すること)しか考えていないし、タクシーやトゥクトゥクの運転手は外国人観光客を騙してあの手この手のセコい手で少しでも多くの金を払わせようとする。外国人観光客の場合、タイ人と交流する機会は非常に限られており、このような手合いとしか関わることがないのは紛れもない事実であり、冒頭にあるような錯覚に陥ったとしても決して不思議ではない。

夜、日本から遊びに来ている友人にバンコク市内の名所を紹介してまわった。ひとつひとつ詳しく書いてしまうと何行あっても足りないから、きょうは夜の街でタイ人女性から声をかけられた件について書きたい。

午前3時頃、スクンウィット15のルワムヂットホテル地階にある売春婦が集うバー「トァーメー」前の歩道をふらついていたところ、タイ人女性が「こんにちは~」と日本語で話しかけてきた。下記は本人の自己紹介の要約。

1. チュラロンコーン大学に通っている。
2. 大学1年生、18歳である。
3. 大学で日本語を勉強している(チュラロンコーン大学文学部の日本語学科の学生)。
4. この一帯(閉店後に売春婦が場外戦を繰り広げる屋台街)には始めてきた。
5. ここのバミー(タイ式ラーメン)が美味しいと聞いて30歳の友人と一緒に来たがはぐれた。
6. どの屋台が美味しいか分からないため、まだ夕食をとっておらず空腹である。
7. 国民 ID (タイ人には携帯が義務付けられており、売春婦がホテルに入るためには必要)は部屋においてある。
8. もし方向が一緒なら、途中までタクシーに乗せてもらいたい。
9. ところで売春婦が多いみたいだけど、相場はいくらぐらいなの?

 

ちょっとした追加イベントがほしいと思っていたため、まさに渡りに船。彼女の正体はともかく、とりあえずペッブリー7通りにあるアパートまで送っていった。到着後、ちょっと寄っていかないかと誘われ、タイ人のお宅訪問もかねて友人のために了承した。アパートの概要はつぎのとおり。

Ⅰ. 警備員3人による終日警備
Ⅱ. カードキーによるオートロックシステム
Ⅲ. 家賃5,500バーツ
Ⅳ. 6畳程度の部屋
Ⅴ. 新型冷房機, 化粧台, ダブルベッド, テレビ台標準装備
Ⅵ. 個人の所有物1: ソニー製25インチ型フラットテレビ(推定22,000バーツ)
Ⅶ. 個人の所有物2:ミニコンポ(推定7,000バーツ)
Ⅷ. チュラロンコーン大学への通学便利圏内

 

さらに最初の自己紹介では知りえなかった情報がつぎつぎと明らかになった。

10. 両親は自動車運転中のアクシデントで死亡している。
11. 母は以前、埼玉県で仕事をしていたことがある。
12. 親からの支援がないため、慢性的な金穴で苦しんでいる。
13. ラーチャテーウィーアパートメント(ペッブリー18)に住んでいたことがある。
14. 実は20歳である。

 

さらに下記の証拠品を示した。

15. チュラロンコーン大学の女子制服(胸の校章はないがボタンは大学指定のもの)
16. キャンパス内で撮影した自分の写真(制服着用, キャンパスのどのあたりかは不明)
17. アサンプション大学の友人から借りている教科書
18. ビジネススクールの教本とノート

 

日本語能力そのものはチュラロンコーン大学日本語学科1年生終了時の標準的なレベルを満たしているが、会話中にその記憶力の悪さに何度か驚かされ、また不審な点がいくつもある。

A. 親の仕送りなしに、フルタイムの大学生アルバイトの月給に匹敵する家賃を工面できるとは考えにくい
B. 親の仕送りがなくアルバイトもせずに、大学の授業料を支払えるとは考えにくい
C. なのに電化製品の装備が標準的なタイ人のものよりも遙かに高級
D. チュラの学生にしては、英語の語学力が貧弱(タイ人売春婦の標準よりは高い)

 

考えられる可能性はつぎのとおり。

イ. 過去にチュラロンコーン大学の学生だったことがあるが現在は売春をしている(30%)
ロ. チュラロンコン大学の制服は趣味、教本は商売道具であり、日本語は母または日本人男性から習った。単なる売春婦(20%)
ハ. チュラロンコーン大学の学生で、両親は健在であり売春もしている(20%)
ニ. チュラロンコーン大学の学生で、両親も健在であり、本当に売春していない(20%)
ホ. チュラロンコーン大学の学生で、両親は死亡しており売春もしている(10%)

 

内容が矛盾しすぎており結論が出せない。あすのアポは取ってあるので確認したい。でも、彼女が言っていること全てが事実であるとはまず考えられない。

みなさんは、どう思われますか?

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。