授業終了後、ヂュラーロンゴーン大学構内の並木道をパヤータイ通り方面へ歩いていたところ、すぐ横にアメリカ人クラスメイトのベンツC280が停車して「送っていくから乗らないか?」と声をかけられた。このクラスメイトは熱心なカトリック信者で、ハードなカリキュラムに今にも押し潰されそうになっている僕の精神状態をとてもよく気にかけてくれている。
構内の駐車場に学生のクルマは駐車できない決まりになっているけれど、なぜかこのアメリカ人クラスメイトのベンツには駐車の許可が下りている。フロントグリル部には内務省統治局の公用車章、フロントガラスには王家の紋章ステッカーが貼られている。
公用車章については、官職に応じてタイの官吏に貸与される公用車に表示されているとエーンが説明してくれたことがある。アメリカ人クラスメイトによると、公用車章はカネで買えるが警察の検問では呼び止められるし交通違反を犯せば違反切符も切られるという。
クルマはアパートがあるペッブリー通りではなくラーチャダムリ通り方面へと向かい、ホテル The Regent Bangkok の駐車場へ入っていった。途中で「バイオリン曲は好きかい?」と聞かれたが、まさか高級ホテルでお茶をすることになろうとは思いもよらなかった。大金持ちが考えることはよく分からない。
地下駐車場にクルマを駐めて細い階段を上った。ホテルのロビーは吹き抜けのカフェラウンジになっており、ピアノとバイオリンの生演奏が聞こえてきた。中庭は質素だが金がかかっていそうなアジア情緒あふれる庭園になっている。
アメリカ人クラスメイトは、僕がハードなカリキュラムに押し潰されそうになっていることについて、信仰心が足りないのが原因と断定してカトリックに入信するよう強く勧めてきた。日本の公立学校には共産主義的な教師が多いから日本人は宗教を軽視または否定する内容の教育を受けていて、特定の宗教を信仰している人でも宗教については友人と話し合わないようにしている、と言って宗教談義に終止符を打とうと試みたが、アメリカ人クラスメイトは旧ソ連を引き合いに出して信仰心のない共産主義者は幸福になれないしまともな社会も建設できないという主張を続けていた。カフェラウンジの近くにいた日本人出張者は、僕たちの早口タイ語論議を眺めながら目を白黒させていた。それに気づいたアメリカ人クラスメイトは鏡越しに日本人出張者を眺めながら「あの日本人は僕たちが英語を使わずに話し合っているのを不思議に思っている」と面白そうに話していた。たしかに日本人と白人がタイ語で議論をしている光景は普通じゃない。
ホテル The Regent Bangkok のアフタヌーンティーは午後3時から午後6時までの時間帯に提供されていて、おかわり自由のお茶と食べきれないほどの量のケーキ2人分で合計560バーツだった。その後、高架電車に乗れば10分で帰れる1.9kmの道のりをクルマで1時間かけて送ってもらった。アメリカ人クラスメイトはさらに2時間半かけて帰宅したという。
バンコク都内の主要道路は雨が降るとすぐに大渋滞になってしまう。高架電車と高級車、どちらが快適なのかは微妙なところだ(それでもカネがあれば僕は高級車を選ぶつもり)。