ダンスの興行を間近に控え、エーンはきょう徹夜で練習するという理由で外泊している。真偽のほどは分からないが、どうせ自分には関係ないことだから詮索するつもりもない。ずいぶん前に Bangkok Night と呼ばれる夜の街へと出かけるのは飽きていて、いまでは苦痛すら感じているが、こんな機会はめったにないから普段できないようなことをやっておきたい。
ペッブリー18街路にあるアパート徒歩5分のラーチャテーウィー駅から高架電車に乗ってアソーク駅に移動して、そこからスクンウィット通りをナーナー駅方面へ歩き、スクンウィット15街路にある売春婦調達バー「トァーメー」に入った。
ここはインターネット上でも話題にあがる店で呼称にも諸説あるが、正式なタイ語名称は เทอร์เม่ บาร์ และ ค๊อฟฟี่เฮ้าส์ (トァーメー・バー・レ・コッフィーハウス)という。日本人のなかには売春婦と親しくなるためにタイ語を勉強している人もたくさんいるが、タイ語が上手くなればなるほど売春婦から相手にされなくなるという話はあまり知られていない。
ある日本人が売春婦を買おうとしていたので、通訳してあげた。
“ขอโทษครับ เค้าบอกอยากจะไปเที่ยวกัน สองชั่วโมงนึงพันบาทน่ะ ไปป่าว?”(コートートクラップ・カオボークヤークチャパイティアオガン・ソーングチュワモーングヌングパンバートナ・パイパーオ)
「すいません、この人が2時間1,000バーツで一緒に出かけたいって言ってるんだけど、行かない?」
“แค่พันเดียวเองหรอ? เอาพันห้า ไม่งั้นก็ไม่ไป”(ケーパンディアオエーングロー? アオパンハー・マインガンゴーマイパイ)
「え、たった1,000バーツ? 1,500バーツじゃなきゃ行かない」
“อืมม์ แต่ถ้าพันเดียวน่ะ เค้าบอกว่าออกไปเที่ยวกันตอนนี้ได้เลย”(ウーム・データーパディアオナ・カオボークワーオオクパイティアオガントーンニーダーイルーイ)
「でもさあ、彼は1,000バーツだったら今すぐOKだって言ってるよ?」
“ไม่เอา อย่างไรเอาพันห้า รู้ใช่ม่ะ นี่คือ 仕事 ของฉันน่ะ”(マイアオ・ヤーングライアオパンハー・ルーチャイマ・ニークーシーゴートコーングチャン)
「ダメ。ゼッタイ1,500バーツ。わかってるでしょ? これはシゴトなのよ」
この売春婦は会話中の「仕事」という部分で日本語を使っていた。年齢から推測すると日本人向けの歓楽街「タニヤ」のカラオケスナックでホステスをしていた経験があってもおかしくない。
近年、タニヤでは日本の不況の影響か接待用途の固定客が激減しており、どの店も労務費のカットを迫られている。そのため売春婦たちの賃金も減って、ほかで副収入を稼がなければならない状態にあるという。
トァーメーにいる売春婦たちをシロウトとは呼ばないでほしい。売春婦たちはここで稼いだ金(窃盗や詐取を含む)でアパートの家賃を払い、食事をとり、麻薬を吸引しているプロの「フリーの売春婦」たちだ。しかも売春婦たちのサービスを利用することを援助交際と表現するのはもう完全に物事の本質を見失っちゃってる。