環境による強制こそが、すべての挑戦を成功へ導く。
夕方、エーンとフワランポーン駅へ行って、国鉄東北線の寝台特急69号バンコク発ノーンカーイ行きの指定席切符を買った。すでに1階席が満席になっていたため18号車2等冷房寝台車の上部寝台(563バーツ)を確保した。
今回の旅の目的は今月24日に有効期限が切れてしまう学生ビザに代わる新しい滞在資格を得ることだった。明朝いったんラオスに出国してからすぐにタイへ引き返して有効期限1ヶ月の到着ビザを手に入れるつもりでいる。アメリカ留学までにバンコクで済ませておくべきことがいくつもあるため半月程度の時間はほしい。
衛星放送UBCの解約、固定電話回線の解約、携帯電話の利用停止申請、アパートの転出予告、私立学校教員免許の取得、家財道具一式の一時保管先の確保、アメリカの語学学校に入学許可証を送るよう依頼するための作業、出願を半年遅らすことを大学院に申告することなどなど。
出発直前まで売れ残っていた「上部寝台」には朝まで悩まされ続けた。まず寝台が上部にあるため窓がなく外の景色を楽しむことができない。たとえ深夜の真っ暗闇のなかを列車が走っているとしても「外を眺める自由」がないのは落ち着かない。つぎに車両の上部が斜めに丸まっているため天井が傾斜していること。これでは座ることすらできないので、やむなくアザラシのようにずっと寝っ転がっていた。極めつけは寝台の下部より上部の方が車両の振動が激しく伝わること。タイ国鉄の車両には韓国で使われていた安普請の中古老朽車両が多いためただでさえ騒音がひどい。線路の整備状況が悪く上下にも揺れるものだから寝付けないばかりか吐き気すら覚える。
寝台の幅がシングルベッドの半分しかないため何もできず、時間を持て余していたため18号車から先頭の1号車まで歩いてみることにした。
「もうすぐすべての車両の扉が閉鎖されるよ」
16号車(2等冷房寝台車)まで前進したところで車掌にそう注意されて後退を余儀なくされた。エーンが古本屋で借りてきた少女漫画を冷房のない3等車でもいいから椅子に座ってゆっくり読みたいと考えていたけれど、その希望すら叶えられなかった。
狭い上部寝台へ戻って寝っ転がりながら少女漫画を読み始めた。少女マンガ特有の「お決まりのパターン」に呆れながらもなんとか2時間で読破した。内容は完璧に理解できた。口語すら理解できないようでは、これまで何のために1年間もタイ語を勉強してきたのか説明がつかない。
車掌が言っていたとおり午前零時には寝台車の前後の扉が閉鎖された。デッキに出られなくなったため、やむなく便所でタバコを吸うことにした。便所内には「駅に停車しているときには糞尿を流さないでください」という貼り紙があって、便器の底を覗いてみると線路が見えた。
翌20日の午前1時半には読書を終えて眠ろうと必死に努力した。
きょう初めて漫画本を最初から最後まで読破した。