麻薬がらみの殺人事件で一色のニュース

タイにおける麻薬撲滅戦争はまさに戦争状態の様相を呈している。

この部屋のテレビにはこれまでエーンが好きな衛星放送 UBC の音楽チャンネル(49チャンネル)ばかりが映っていたけれど、エーンがいなくなったいま好んで見ているのは地上波3チャンネルと地上波 ITV 。ほかのチャンネルよりニュース番組が多く、特に ITV は一日中ニュースばかりやっている。

タイ首相のタックスィン・チンナワット警察中佐は年初に行われた会議の席上、各県の知事や警察幹部たちを前に「麻薬撲滅戦争(ソングクラームプラッププラームヤーセープティット)で功績を上げなかった者は更迭する」と発言した(タイの県知事は内務省から派遣される官僚で選挙で選ばれていない)。それを契機にタイ全国で一斉に麻薬撲滅戦争が勃発。それまで個人レベルの不正蓄財にしか興味を示してこなかったタイの権力機構がここまで意欲的に不正を取り締まるのはきわめて異例という。

先日、出張でサラブリー県へ行った友人が「一般の国道でも警察官がすべての原付を停めて荷物を検査していた」と話していたけれど、今回の取り締まりは本当に徹底している。若者たちの麻薬のメッカとして知られている Royal City Avenue では数週間に一度の頻度で警察による立ち入り検査が行われている。警官隊がディスコにあるすべての出入口を封鎖して臨時の尿検査ブースを設け、現場指揮官が DJ ブースを占領し強制的に営業を中断させて店内の照明をつけるという。便所では「陰性」の尿が高値で取引されているというウワサもある。この影響でバンコク都内のディスコ客は激減した。

警察による麻薬の取締は苛烈を極めている。今回の麻薬撲滅戦争では麻薬関連の容疑者が抵抗したら射殺してもよいとの通達が出ているらしく、きょうまでに膨大な数の死傷者が出ている。一説によればこの2ヶ月のあいだに300もの命が失われたという。この件では国連の人権委員会がタイ政府に抗議を行っている。

タイにおける麻薬問題はかなり根深い。麻薬密売組織の幹部のリストには政府や軍警察の有力者たちが名を連ねている(そういえば昨年ラオスへ行ったときに便乗させてもらったクルマも海軍大将に麻薬を届けるための輸送車だった)。タイの司法警察が今回の射殺許可の通達を利用して「秘密を知る者」を次々と始末しているという報道もある。

麻薬がらみの殺人事件が起こったときにタイのニュースはこのように報じている。

「○○警察の○○中佐によると、この殺人の背景には麻薬組織同士の抗争があるもようです」

最近のニュースでは麻薬がらみの殺人事件ばかり報じられている。きょうの ITV の報道特集では「何も知らされないまま麻薬の運び屋にさせられていた小学生」が取り上げられていた。タックスィン首相によると、タイの麻薬犯罪組織は「ピザよりも早く確実に届く優れた物流システム」を構築しているという。

きょう母から「麻薬とゲイには気を付けてくださいね」というメールが届いた。危ないことには手を出さない。タイで平穏に暮らしていくための鉄則だ。

夜、友人の会社からアメリカの語学学校へパスポートのコピーを FAX させてもらった。そのお礼に翻訳の仕事をしているとタニヤ通りにあるカラオケスナック「ゆかり」の店主から電話があって、とある複雑な問題を解決するための通訳を依頼された。報酬はキープボトル1本だった。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。