子供らしく – タイ人社会の一面 (LA留学生日記より)

「年長者に対しては弱々しく子供のように振る舞え。これはタイ人社会における秩序を維持するうえでの大前提となっているから、間違っても軍隊のようにハキハキ受け答えしてはいけない。あとは敬語さえ適当に使っていれば問題ないはずだ」

夜、シェアハウスの同居人あてに届いた郵便物を受け取るために、タイ人の同居人たちとアメリカ在住32年目のタイ人老婦人宅(55歳ぐらい?)にお邪魔することになった。これまで路上の物売り以外に歳が離れているタイ人とは話した経験がなかったため、どのように振る舞えば良いか事前に確認してみたところ、このようなアドバイスがあった。

タイの社会における諸悪の根源はまさにコレだと思う。子供の独立独歩を全否定するタイ特有の社会観。年長者に追従することで思考を停止させてしまうタイ特有の道徳観。

タイ人は年長者への服従が美徳であると子供の頃から叩き込まれているため、大人になっても子供っぽい振る舞いをすることがよくある。年長者によって公認されている古い価値観の範疇で行動をすることが求められており、創意工夫によって生み出された新しい個性は反社会的なものと見なされている。しつけとは子供たちが試行錯誤しながら社会に適応するためのルールや常識を自力で理解できるよう促すものであるべきなのに、タイの年長者たちが異常に過保護で決して叱ることがないため子供たちの成長と自立は著しく阻害されている。

こうした問題は、タイ人の振る舞いのみならず、タイにおけるさまざまな分野の活動にも深刻な影響を与えている。教育の現場でも学生たちには講師への追従が求められており独自の持論を展開して応用する訓練を受ける機会がないため、タイ人は学歴にかかわらず政治・経済・社会に対して無知で自分の意見も持っていない。

もしタイ人がこうした風習について肯定的であるのなら構わないけれど、個人的にはタイの教育システムと社会秩序システムには重大な問題があって問題は正されるべきだと思っている。

タイ人老婦人に対する立ち居振る舞いについては、タイ人の友人から最高の評価をいただいた。きょうはタイ人の成長過程の一部に触れたような気がした。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。