タイ人風大晦日

2003年最後の日。

バンコクには日本の正月のような静けさがない。銀行も通常通り営業していて風情の微塵もない。タイ人のとっての大晦日とは「年末年始のお祭り期間のうちの1日」にすぎないのかもしれない。ちなみに、この年末年始のお祭り期間はクリスマスイブから元旦(世界新年)までの9日間を指す。

夕方ごろ、高架電車 BTS トーングロー駅前にあるムーガタ屋(豚焼肉屋)で、ブワの高校時代の友人たちと夕食をとった。ひとり99バーツで食べ放題だった。代金は今日(大晦日)が誕生日の人が全額負担した(タイではパーティーの主人公が全額を負担する慣わしがある)。

食後、そのメンバーたちで新年のカウントダウンをしようという話になった。

18歳のタイ人女性が10人。集団内における意思の疎通をとにかく苦手とするタイ人が、大人数で団体行動しても一貫性のある行動が取れるはずがない。

事態は時間の経過とともに加速度的に悪化していった。当初、彼女たちは目的地を定めないまま行動を始め、周囲の雰囲気に任せて目的地を決定し、さらにその時々の気分に任せて目的地を次から次へと変更していった。そして、何度も目的地を変更していくうちに、郊外から都心部へ集結しつつあった自家用車で交通渋滞が深刻になっていき、とうとう「どこへ行っても間に合わない」という事態に陥った。それに気付いて大急ぎでブワとその一団から抜け出して、まだなんとか間に合いそうな目的地を探すことにした。

バンコク都内にある主なカウントダウン会場は、①セントラルワールドプラザ前のラーチャダムリ通り一帯、②高架電車国立競技場駅(サナームギーラーヘングチャート駅)前にある旧国立競技場、③ヂャーオプラヤー川に架かるプララームペート橋(ラーマ8世)などがある。しかし、いずれも付近の交通が麻痺して今頃は大変なことになっているはず。

カウントダウンの会場を求めて、サヤームから東へ向かって歩いていたところ、なかなかの穴場を発見した。高架電車プルーンヂット駅前にあるホテル「インターコンチネンタル」の1階で、入場料ひとり400バーツ(1ドリンク付)、2杯目以降は1杯280バーツだった。カウントダウン終了後の帰宅の目処がつけば入ろうかと思ったけれど、高架電車の駅前に長蛇の列ができてタクシーで帰宅するにしても大渋滞に巻き込まれることが目に見えている。

午後11時、タクシーでスクンウィット19街路にあるホテル「ウエスティングランデスクンウィット」へ向かった。ここなら自室があるコンドミニアム(スクンウィット13街路)まで歩いて帰れるし、渋滞を気にする必要もない。

午前零時、ホテル7階にあるピアノバー「ゼスト」でカクテルを飲みながら洋楽の生演奏を聴いて、窓から見える花火を眺めた。

来年のカウントダウンは、前もってバーに予約を入れておきたい。

ところで、目的地をトーングローにあるクラブからサヤームスクウェアへ変更したところから別行動をとっていたブワの友人たちは、そこからさらにサパーンプララームペート橋(ラーマ8世橋)へ向かい、移動中のトゥクトゥクの中で正月を迎えたという。

新年を迎え、都内各所で花火がいっせいに打ち上げられた。ありていに言ってしまえば、バンコクの正月とは花火大会の日のことだ。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。