クラスメイトたちは、僕の旅行カバンを「ゴミ袋」と呼んでいる。由来は後述する理由からゴミ袋(黒, 45リットル用)のなかにカバンを入れて持ち運んでいるところから来ている。
カンボジアの都市と都市とのあいだを結ぶ主要幹線道路はほぼすべてが未舗装路で、この国で舗装されている道路はせいぜい首都の近郊と地方都市の中心部ぐらいしかない。物流の大動脈である国道6号線(プノンペン – タイ・アランヤプラテート間)も例外ではなく、僕たちを乗せたバスは未舗装路にできている凸凹を避けながらジグザグに走っている。車内はまるでトランポリンで、ろくに昼寝すらできない。
交通量が多い路線の沿道に住む人々は一日中砂埃を被りながら生活している。僕たちがこうして乗っているオンボロ観光バスの貨物室にも大量の砂埃が入ってきて、クラスメイトたちの旅行カバンは例外なく砂埃まみれになっている。だから、僕は旅行カバンを観光バスの貨物室に預けるときにはこうして自分のカバンをゴミ袋に入れている。
幹線道路に架けられている橋は、非常に簡素な作りをしていて、見てからに強度もなさそうだった。そのため、複数のクルマが同時に通過するのを防ぐために、あえて狭く作られている。沿道の家々には電力をはじめ、上下水道や都市ガスなどの基本的なライフラインが普及しておらず、人々はまるで原始人のような生活を送っている。カンボジア人ガイドによると、アンテナが立っている家屋もちらほらとあるが、ほとんどは自家発電で電力をまかなっているため、電力を大量に消費するカラーテレビは使えず、今でも白黒テレビが活躍しているという。
何時間も車外の風景を眺めていると、それぞれの集落に共通している特徴を見つけた。集落の入口には必ず政党の看板が掲げられていて、まるでその政党が集落全体を支配しているかのようになっている。実際に各集落にある政党事務所は、その集落で一番大きくて豪華な家がほとんどだった。
きょうはアンコール遺跡群西部にある西バライ(仏教様式, 11世紀末にスールヤヴァルマン一世とウダヤーディティヤヴァルマンにより建立)と、アック・ヨム(ヒンドゥー教様式, 7世紀初頭に建立)を見学した。
ホテル「シティ・アンコール」にチェックインしてシャワーを浴び、レストラン「バイヨンⅡ」でカンボジア固有の伝統芸能「アプサラ」を見物した。
今回の調査旅行に同行しているヂュラーロンゴーン大学大学院准教授(政治学)の話。
「我々タイ人にも、ラーマギアン(タイ伝統舞踊)とアプサラ(カンボジア伝統舞踊)の違いはあまりよく分かっていない」