バンコクで何年間も暮らしているけれど、タイの文化をすべて理解するためにはあと百年はかかりそうな気がする。自分が知らないことの多くはタイ人でも分からないようなマニアックなものばかりだが、さしあたって人々の生活に密着しているものぐらいについては知っておきたい。
午前中に「東南アジアの麻薬取引」の講座ガイダンスを受けたあと、仏教の商業化について研究している友人とチョークチャイスィー通りにある骨董品情報誌「クラングプラクルアング」を発行している編集部へ出かけた。この出版社には著名な鑑定士がいて古物業も営んでいる。
タイでもっとも人気がある骨董品といえばプラクルアングラーングだ。著名な僧によって砂を固めて作られた仏陀や僧の肖像で、タイ人のなかでも特に信仰の篤い仏教徒は肌身離さず常に首から提げている。本来は寄進などで寺院に貢献した信徒に対して無料で配布されるものだが、巷では製作した僧の名声や希少価値によって100バーツから数万バーツの値が付けられ盛んに売買されており、タイの大富豪などは時価数億円ともいわれる「奇跡を呼ぶプラクルアングラーング」を身に付けているという。タイでもっとも人気があるプラクルアングラーングは、19世紀前半の高僧ソムデットプラプッターヂャーンプロンマラングスィーが製作したソムデットプラワットラカンで、国王が1965年から1970年にかけて官吏たちに下賜した2,500体限定のプラソムデットヂットラダーも高値で取引されている。上にある画像のプラクルアングラーングは、その次くらいに人気がある「プラピットター」というもので、1979年に4,000体限定で鋳造された。時価は12,000バーツ前後。
昨年9月、当時ロサンゼルスで共同生活をしていたタイ人(この人の姓はチアングマイだった)の実家に泊めてもらったときのこと。寝起きでフラフラとしていて、友人の机の上に置いてあったプラクルアングラーングのすぐ近くに座ってしまったときに、ものすごい剣幕で怒られたことがある。タイ人にとってのプラクルアングラーングとは、自分の運命に影響を与えるほど重要で大切なものなんだろう。
骨董屋「クラングプラクルアング」の店内にはたくさんのプラクルアングラーングが陳列されていた。その一角には店主の無料鑑定ブースがあって、プラクルアングの価値を知るためにやってきた客のほか小遣い稼ぎにやってきている僧などが人垣を作っていた。この日、店に持ち込まれたプラクルアングラーングの大半は贋物だった。
その後、友人とトーングロー通りにあるショッピングモールでピザを食べ、その隣にあるStarbucks Coffeeでプラクルアングラーングについていろいろと教えてもらった。