タイ大学めぐり その8

いつもより少し早く起きて、何も考えずにホテルにある食堂でアメリカ風の朝食とっていると、目の前に建っている金色に輝く小さいながらも重々しい雰囲気を放っている仏教寺院に目がとまった。窓際にある隣の客席に目をやると、子猫が気持ちよさそうに寝入っていた。

これが「時間がゆっくりと流れている」といわれているタイの田舎風情なのかもしれない。

しかし、飛行機が出るまでの4時間をそんな風情なんてものに浸り続けていることもできない。暇をつぶすために、チアングマイ市の郊外にある大学をふたつ見て回ろうと、ホテルの近くにあるターペー通りからトゥクトゥク(バイクに荷台を取り付けた改造3輪タクシー)に乗って、「メーヂョー大学、パーヤップ大学、それからチアングマイ空港の3ヶ所を3時間の予定で400バーツ」という条件で交渉してみたところ、運転手はあっさりと快諾した。もしかしたら相場からかけ離れている金額を提示してしまったのかもしれない。通常、チアングマイの旧市街をスィーロー(トラックの荷台タクシー)で移動する際にかかる料金は5~10バーツ、トゥクトゥクで20~40バーツ程度であるのに対して、郊外へ行くためにはスィーローを(事実上)借り切る必要があって相場は40バーツ程度と言われている。

トゥクトゥクの運転手は、いまの仕事に就くまで、毎日のように熱帯の厳しい太陽光を浴びながら仕事をするような農民だったのだろうか。顔は真っ黒に日に焼け、まだ若いというのにまるで初老の老人のように見えた。そんな彼が運転するトゥクトゥクは、チアングマイ郊外の自然に恵まれた県道1001号線を安っぽい大きなエンジン音をあげながら疾走し、途中、正門前に新校舎を建設中のメーヂョー大学(14.3km, 25分)、小規模ながらも茶色に統一された校舎が整然と配置されているパーヤップ大学(さらに12.4km, 19分)に寄りながら、一路チアングマイ国際空港(さらに13km, 15分)へ向かった。乾期にさしかかっているこの時期にTシャツ1枚では少し肌寒く感じた。所要時間は当初予定していた3時間より短い2時間10分。僕が乗る予定のバンコク行きのタイ航空113便が出発する2時間半前だった。

チアングマイ国際空港の国内線ターミナルのゲート前で、トゥクトゥクの運転手に約束の運賃のほか、今回の大学巡りでいろいろと世話になった礼金として100バーツを加えた合計500バーツを手渡して、空港1階にあるタイ航空国内線のチェックインカウンターへ向かった。

「チェンマイ空港で今朝発生した機材故障のためダイヤが大きく乱れております。ご予約の113便より早くバンコクに到着する111便に振り替えておきましたので、どうかお間違えのないよう」

バンコク・ドーンムアング国際空港に到着したのは予定より約1時間も遅い午後3時半だった。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。