正午過ぎ、それまで分厚い雲に覆われていた薄暗い屋外は、不気味なほどコントラストがハッキリと分かる豪雨直前の独特の雰囲気を放っていた。
スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite の前からタクシーに乗り、高架電車サヤーム駅の付近にさしかかったところで、突然、大粒の雨が降り出した。
まるで滝のような雨のなか、タクシーはヂュラーロンゴーン大学文学部の4号館前に到着した。メーターには55バーツと表示されている。すでに目的地に到着しているタクシーの中で、いつまでもこうして雨が止むのを待っているわけにもいかない。タクシーが進入できる大学構内の道路から4号館の入口までの距離はおおむね25メートル程度だから、サンダル型の革靴で水たまりの中を走ったとしても、全力を出せば10秒もあれば十分に到達できる。ここは意を決して強行突破するしかない。
よーいどん。
教室へ入ると、クラスメイトたちが一斉にこちらを振り返って、「不運だったね」と目で語りかけてきた。Tシャツはグショグショ、髪はペッタンペッタンになるまで濡れていた。
バンコク人には傘を持ち歩くという習慣がない。どうせ傘をさしたところで滝のような大雨には対処できないし、20分も雨宿りをしていれば止んでしまうことがほとんどだから、誰もが「雨が降ったら適当に雨宿りをしてやり過ごそう」と考えている。
不運はさらに続いた。きょうは午前と午後の講義が入れ替わっていたそうで、僕は冷房がキンキンに効いた教室でガクガクと震えながら、出席する必要もない「東南アジア学における調査方法論」の講義を聴く羽目になった。
雨はその10分後に止んだ。