タイ人娼婦の日本輸出エージェント

「以前、ウィッタユ通りに住んでいる日本人と付き合っていたんだけど、倫理的にどうしても許せないことがあったのよ。その日本人は、普段の生活は善良な市民そのものだったけど、タイ人の娼婦と偽装結婚して日本へ連れて行って、日本の性風俗店で働かせることを仕事にしていたの。この仕事だけで3年間は飯を食ってきたみたいよ。でも、ある日、自分が関わってきたタイ人の娼婦たちが日本の警察に検挙されると、その仕事から足を洗って日本へ帰ってしまった。彼は『この婚姻は文書上だけのもので、それ以上の関係はない』なんて言っていたけど、後になって友人から聞いた話では、全員としっかり関係を持っていたらしいわ。ああいう手合いはもう本当に勘弁してほしい」

スクンウィット22街路にあるビジネスホテルでコーディネーターとして働いている友人は、マハーナコーン工科大学に在学していた当時に同棲をしていた日本人のエージェントについて、このように振り返った。タイ人の娼婦と偽装結婚をして日本へ送り出すというビジネスについては前々から噂には聞いていたが、こんな身近に関係者がいたとは驚いた。

この友人によると、日本へ送り出されるタイ人の娼婦は、外国人向けの性風俗施設が立ち並んでいるナーナー(スクンウィット4街路)からアソーク(スクンウィット21街路)にかけてのスクンウィット通りや、ラッチャダーピセーク通りのソープランドが立ち並んでいる地下鉄フワイクワーング駅周辺の界隈で、日本人エージェントの元締めによってスカウトされて、別の日本人男性(友人の元カレなど)と偽装結婚することで日本の配偶者ビザを手に入れているという。名義を貸した日本人男性には、娼婦ひとりにつき6万~10万バーツの報酬が支払われているらしい。

タイ人向けの旅行会社に勤めている別の友人が、以前、次のように話していた。

「近年、日本大使館の領事部がタイ人の女性に対するビザの発給審査を強化しいる関係で、超優良企業の社員や上位国立大学の学生でもない限り、日本行きのビザはなかなか手に入りにくい状況になっている。以前は日本人の配偶者というだけで簡単に発給を受けられたが、日本人が関係している偽装結婚が急増したことで、いまでは日本人の配偶者でも大量の書類を提出するように求められるケースも多くなった」

今晩、およそ3ヶ月ぶりにホーガーンカータイ大学の学生街にあるパブへ友人と繰り出した。この店は、制服のままでも入れるバンコク都内でも数少ない飲み屋だったが、タイ人のあいだに知れ渡ってしまったせいか男性の会社員だらけになっており、学生街のパブならではの魅力は完全に失われてしまった。警察にも目をつけられたため、制服の上にカーデガンを羽織らないと店に入れなくなったし、入口の年齢チェックも厳しくなっていた。

「久しぶり!どう? 店の雰囲気、けっこう変わったとは思わない?」

あまりにも変わりすぎだ。もう二度と来ない。

僕たちはこの店を早々に後にして、カーオサーン通りにあるディスコへ向かった。店内では予想していたとおりラッチャダーのディスコ系の曲ばかり流れており、客層から踊り方まですべてが好きになれなかった。はっきり言って、ダサすぎる。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。