タイ人労働論 その2

「株式の一部を従業員に譲渡してしまうなんて言語道断だ。使用者は使用者、従業員は従業員なんだから、使用者と従業員のあいだには決して超えることが許されない一線がある。だから、従業員が使用者になるようなことは絶対にあってはならない。たとえどんなに優秀な従業員であっても、勤務先の株式を手に入れてひとたび『株主』という立場になれば、とたんに豹変して横柄になり、労働の質は間違いなく低下する」

昼過ぎ、会社社長の友人に誘われてチョンブリー県バーングセーンの漁港にある海鮮料理店「ムック宮殿」で新規のビジネスについて話をしていたところ、一緒にいた現地の警察幹部はこのように語った。今月2日の日記にある使用者と労働者との関係について、はじめて現場の声を聞いた。店の後背にはサーンムックという岩山があり、エサを目当てに山から下りてきたサルを身近に見ることができる。

タイ人労働者論

2004.11.02

夜、バンコク都内のホテルで働いている友人に誘われて、ラッチャダーピセーク4街路にあるパブ Snop の開店一周年パーティーに参加した。そこで、友人が昼の話に関連することを話していた。

「今日チェックインしたファラン(西洋人)の客は本当にたちが悪かった。話があるというから客室に行ってみたら、シーツにしわが寄っているからって、あろうことかこのわたしにベッドメイキングをさせようとしたのよ! なんでマネージャーのわたしが、そんなメーバーン(清掃婦)みたいな仕事をしなきゃいけないのよ!? しょうがないから、客室から清掃部門に電話を入れて、すぐにベッドメイキングをやり直すように指示を出しておいたんだけど・・・・・・ほんと、ファランって無茶ばかり言ってきて困るわ」

従業員が一丸となって協力し合うという精神がある日本企業にいると理解しにくいかもしれないが、タイでは従業員同士のあいだにも歴然とした「格の差」がある。ストックオプション制度は、アメリカでは従業員の意識を高めるインセンティブとして効果が実証されているのかもしれないが、階級社会的な人事制度をとっているタイには時期尚早だ。もしかしたら、タイの社会そのものがストックオプションの制度に向いていないのかもしれない。

タイにおける「使用者」と「従業員」の関係を考えるうえで、非常に有意義な一日だった。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。