昼すぎ、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階の自室で、ダイニングテーブルの上にある予備のパソコンに向かってペーパーを書いていた。ペーパー4本の提出日が今月末に迫っている。そんななか突然、キッチンのほうから奇妙な音が聞こえてきた。
バァン! プシュ――――――
何の音だろうか? このコンドミニアムにガスは供給されていない。となれば、水道管が破裂したか、エアコンの冷却ガスが漏れたかのどちらかしか考えられない。不安な気持ちを抑えながら、恐る恐る真うしろにあるキッチンのほうを振り向いてみたところ、なんとシンクの下から大量の水が流れ出していた。
悪夢だ。ものすごい量の水が、とてつもない勢いで部屋全体へ広がっていく。
すぐにコードレスの内線電話に手を伸ばして、コンドミニアムの管理室に水道管の破裂について通報し、水道の元栓を閉じるように要請した。つぎに、携帯電話で部屋のオーナーに現状について説明したうえで指示を仰いだ。
「原状回復に必要な費用はすべてこちらが負担する。来月の家賃から差し引いてもらって構わないから、やれることは何でもやってくれ」
異常発生から約2分後、台所付近の水溜まりは深さ2センチに達し、リビングの端にまで迫っていた。大急ぎで部屋のブレーカーを落とし、猫に荒らされた毛糸のように複雑に絡み合っていた配線をすべて取り外して、パソコンの本体やプリンターをダイニングテーブルの上に移した。
それからさらに3分後、コンドミニアムの警備主任と部下の警備員たちが共用部分にある水道栓を締め、管理部門の責任者が部屋の惨状をデジタルカメラに納めた。つづいて、7人組の清掃婦が排水ポンプを持ってあらわれた。
こうして、水道管から溢れ出した水が寝室と共用部分に流れ出すのはギリギリのところで食い止められた。僕は所在なく部屋の隅でタバコをふかしながら、清掃婦たちが手際よく後始末していく様子をおよそ2時間にわたって眺めていた。みんなに1,000バーツの小遣いを手渡した。
ただでさえ、愛用していたノートパソコンが壊れて作業の効率が著しく低下しているなか、絶望的な量のタームペーパーのせいで今にも押しつぶされそうな気分になっているのに、代わりに使っている非常用のデスクトップパソコンが冷房の風をダイレクトに受ける位置にあるため風邪をひいて咳が止まらなくなり、そのうえ水道管が破裂して作業が中断されるなんて・・・・・・まったく本当にツイてない。
「もし外出中に水道管が破裂していたら部屋中がプールになっていたかもね?」
もし非常用パソコンまで壊れてしまったら、ペーパー完成の見通しがいよいよ絶望的になる。