国家的処女喪失の日

バレンタインデーのきょうは、恋愛を成就させるための絶好の機会とあって、バンコクの街中どこも浮き足立っているように見えた。通学途中のタクシーのなかでラジオを聴いていたところ、パーソナリティーの女性がバレンタインデーのことを「国家的処女喪失の日」と呼んでいて、僕や一緒にいた友人を仰天させた。

国家的処女喪失の日
วันเสียตัวแห่งชาติ (ワンスィアトゥワヘングチャート)

バレンタインデーは、日本では女性が男性にチョコレートをプレゼントする日だが、伝統的に女性が男性に交際を申し出ることが破廉恥とされているタイでは、男性が女性にバラの花束をプレゼントする日として広く定着している。

昼休み、ヂュラーロンゴーン大学文学部の前にはバラの即売店が設置され、妙に古くさくて情欲的な音楽が文学部4号館の安っぽい拡声器から流されていた。ベンチには女子学生たちが鈴なりになって座っており、男子学生が女子学生にバラの花を手渡すたびに周囲の野次馬たちから大きな悲鳴や歓声が沸き起こった。

タイ政府は性の若年化を憂慮している。マスコミは朝から「愛の日だからって相手からのセックスの要求に応じる必要はありません」と盛んに呼びかけていたが、それでもきょう一日で何十万もの若者が初体験を済ませるという。

「せいぜい初体験の日を数ヶ月間先送りする程度の効果しかないでしょう。若者たちはダメっていわれていてもヤることはヤるんだから、バレンタインデーに初体験を済ませてしまうのも青春時代の想い出づくりとしては悪くないわ」

午後の授業に出席してから、ペッブリー通りにあるバンコクの電脳街「パンティッププラザ」で友人とふたたび合流した。修理のために預けていたパソコンを引き取りに行ったが、不具合が直っていなかったため再修理を依頼した。スクンウィット39街路にあるイタリア料理屋 L’opera で友人と夕食をとったが、味がひどく落ちていた。

帰宅後、スクンウィット13街路にある Sukhumvit Suite 17階の自室で午前2時までペーパーを書き続けた。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。