「これ、たったの1ドルだよ。ハッピーマネーなんだから買ってよ。ねえ、おねがい」
ミャンマーの物売りは素朴だ。マフィアに管理されている柄の悪いタイの物売りたちとは少し違う。物売りの少女たちは「ハッピーマネー」という言葉を繰り返し口にしていた。クラスメイトによると、ハッピーマネーとは「きょう一日の商売を占う最初の売り上げ」のことらしい。物売りの少年少女たちは、片言のタイ語、英語、日本語が操れたため、互いにからかい合っているうちに次第にうち解け、さらに偶然居合わせた日本人が連れていたマッサージパーラー(!?)で働いている3人組のミャンマー人女性従業員も交えて、パゴダの前でとんだドタバタ劇を演じてしまった(最後には鬼ごっこまでやってしまった)。
「だからって、物売りの少女から商品をタダでもらって来ちゃうのは、ちょっとやりすぎなんじゃない? ケチすぎるわ」
タイを知らない日本人が「タイ人って貧乏で可愛そう」と本気で思い込んでいるのと同じで、タイ人のクラスメイトたちも「ミャンマー人って貧乏で可愛そう」と考えているようだ。テレビドラマを収録しているスタジオに着くまで、観光バスのなかでクラスメイトたちからひどく詰られた。
(それなら、学食で君たちから果物やベトナム春巻きを勧められたときに、僕は断らなきゃいけなかったのかい?)
そう切り返したくなったが、さすがにやめておいた。むやみにケンカを売ったところで何も得しない。厚意でプレゼントされたものは、素直に受け取っておくのが一番だ。自分を基準にしてものを考えるあまり、物事の本質を見失ってはいけない。
国立博物館を見学してから、ミャンマー国内で有名な女優が演じているテレビドラマの撮影現場にお邪魔して、昨日の講義にあった「少ない予算でそれなりの映像を作り上げるための工夫」について学んだ。