タイにおける現役女子大生による援助交際

「ビジネス学士大、娯楽ビジネスの淫売学士。このジョーク、どこかで聞いたことあるんじゃないかしら?」

ビジネス学士大
ここでは意味が伝わるように固有名詞をやむを得ず日本語に訳したが、正しくは「トゥラギットバンディット大学」のこと。

アヌサーワリーチャイサモーラプーム(戦勝記念塔)ロータリーの周辺にある歩道や商店は、どこもトゥラギットバンディット大学の制服を着ている学生たちで埋め尽くされていた。そんな風景を渋滞にハマって立ち往生しているクルマのなかから眺めていたところ、助手席に座っているラーチャパット・スワンドゥスィット大学の学生がいきなりとんでもなくシュールでブラックなジョークをぶっ放したので思わず吹き出してしまった。

タイには下位私大を揶揄するジョークがあって、トゥラギットバンディット大学は現役学生による売春の多さと卒業の簡単さから、 ธุรกิจบัณฑิตย์ ธุรไก่บัณฑิต ธุรกิจบันเทิง(ビジネス学士大、娯楽ビジネスの淫売学士:トゥラギットバンディット・トゥラガイバンディット・トゥラギットバントゥーング)と揶揄されている。ほかにもホーガーンカータイ大学(タイ商工会議所大学)の ค้าไปเรียนไป(商売しながら学ぶ:カーパイリアンパイ)という言葉もある。

タイでも学生による売春は深刻な社会問題となっている。タイの売春市場において現役女子大生には根強い人気があり、日本における「女子高生」のようなブランドイメージが確立されている。

タイの若者たち、とりわけ私立大学の学生たちのあいだでは、タイ特有の階級社会に対する親和性が極めて高い「ハイソ」と呼ばれるブランド志向的な消費スタイルが持て囃されている。そのため高価な消費財を持っていない学生が大学内で差別を受けることもしばしばあって、農村部出身の貧しい学生のなかには都市部の裕福な学生たちに対抗するため安易にカネが手に入る売春によって自力救済を図ろうとするケースがあとを絶たない。

援助交際をしている女子大生たちは月々20,000バーツ程度の収入を目標に活動しているといわれている。一部の農村部出身の貧しい学生たちは売春によって得た収入で都市部出身の学生たちが持っているような高価な携帯電話(およそ20,000バーツ)、高価なハンドバッグ(2,000バーツ以上)、高価なハイヒール(1,800バーツ以上)などを調達している。なかには目標としている月収を確保するために複数の客から少額ずつの手当を受け取っていることもある(たとえば4人の男性から5,000バーツずつとか)。ちなみに、農村部出身者が多い都市部の高等教育機関はつぎのとおり(割合ではなく人数順, マンモス大学であればあるほど上位にランクされる)。

地方出身者が多い都市部の高等教育機関
ラーチャパット・スワンドゥスィット大学・スワンスナンター大学、スィーパトゥム大学、トゥラギットバンディット大学、ホーガーンカータイ大学、ラングスィット大学、サヤーム大学、グルングテープ大学

上位国立大に通っているプライドの高い女子学生たちが売春に手を染めることはほとんどないが、文系最難関のヂュラーロンゴーン大学文学部でも数年前に学生の売春行為が露見するという珍事があった。その学生は「神聖なるヂュラー文学部の名誉を著しく損なった」として、クラスメイトたちからさんざんに糾弾されたあげく、最終的には退学を余儀なくされた。当時の文学部に通っていた卒業生によると、「恥ずかしさのあまり登校できなくなったようで、気がついたときにはいなくなっていた」という。

学生によるいわゆる援助交際は、タイでは นักศึกษาขายตัว(ナックスックサーカーイトゥワ:学生売春)、もしくは นักศึกษาขายบริการทางเพศ(ナックスックッサーカーイボリガーンターングペート:学生性的サービス)といったより直接的な言葉で表現されている。

セックスツーリズムに参加している日本人観光客(もしくは在住者)の大半は、日本人向けのカラオケスナックで働いている娼婦、Go Go Bar で水着を着て踊っている娼婦、街娼などといった、タイ人向けの売春市場では見向きもされないような敗残者ばかりを相手にしているのが実情だ。タイ人的な感性では自分の恋人が娼婦であるというだけでも思いっきりアウトなのだが、なぜかその中でも最低レベルの敗残娼婦ばかりをゲットして悦に入っているものだから本当に滑稽でならない。言い換えれば、日本人の買春愛好家たちはタイ人男性が「いらない」と言っているようなものばかりを収集して大喜びをしているのにすぎない。虚しくはならないのだろうか? 買春をしない僕には端から無縁な話しだが、彼らは自分の身近にいるタイ人女性との関わり方について今一度検討し直してみた方がよいのではないだろうか。

昼すぎ、ラーチャプラーロップ通りにあるタイ最高層ホテル「バイヨックサガーイ」78階の展望食堂へ行って、友人とインターナショナル料理のビュッフェ(ひとり350バーツ)を食べた。料理の味は全然ダメだったが、種類は多く、なんと日本食まで用意されていた。純粋にバンコクの景色を眺めに行くだけであれば十分に採算が合うだろう。その後、友人と別れてからスクンウィット15街路にある自動車整備工場へ行って、クルマの後部バンパーやサイドミラーに付いていた傷を補修してもらうためにクルマを預けた。

夜、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階の自室にやって来た別の友人から興味深い話を聞いた。

「ほら、わたしってセンター入試でどこの国立大学にも受からなかったでしょ。それで落ち込んでいたところ、いつの間にかグルングテープ大学やホーガーンカータイ大学の出願にも間に合わなくなっていて、仕方なく近所にあるトゥラギットバンディット大学に入ったんだけど・・・・・・入学後まもなくして男子学生たちが『校門の警備員が売春をしている女子学生の顔写真と電話番号を持っていて斡旋をしてくれる』と話しているのには本当に驚いた。しかもその警備員に直接話を聞きに行ったら、それがなんと事実だったのよ!! それ以外にも当時出版されたなにかの本で、売春率ナンバーワンの大学と紹介されていたのを見て、これはもう本当にヤバいって思ったわ。だからすぐに退学して翌年にグルングテープ大学を受験して入り直したの」

これが嘘のようなホントの話か、それとも単なる都市伝説にすぎないのか、本当のところは僕にも分からない。ただ、そのような認識がバンコク都内の大学に通っている学生たちのあいだに広く定着しているということは間違いない。

半年ほど前、 Central World Plaza の向かいにある台湾式足ツボマッサージ屋で読んだ日本語性風俗情報誌 G Diary に大学生による援助交際についての特集記事が組まれていたが、どうせやるならこれぐらいの調査をしてから書いてもらいたいものだと友人が苦言を呈していたのを思い出した。

この記事を書くにあたっては、要旨が偏ったものにならないよう、できるだけ多くの友人たちに情報の提供を依頼した。特に次の教育機関に通う友人たちの話が参考になった。

情報提供者一覧
(所属している教育機関名のみ)

ヂュラーロンゴーン大学文学部・理学部、タンマサート大学文学部・政治学部・社会学部、チアングマイ大学経営学部、スィンラパーゴーン大学文学部、マヒドン大学経営学部、スィーナカリンウィロート大学文学部、ラームカムヘーング大学法学部、グルングテープ大学工学部・経営学部、アサンプション大学文学部・経営学部・法学部、ホーガーンカータイ大学文学部・情報学部、ラングスィット大学文学部・情報学部、トゥラギットバンディット大学商学部・情報学部、スィーパトゥム大学文学部、グルーク大学商学部、マハーナコーン工科大学商学部、プラヂョームグラーオ工科大学北プラナコーン校工学部、ラーチャパット・スワンドゥスィット大学情報学部、ラッタナバンディット大学商学部、アンタウィット商業高等専門学校商業科。

協力してくれた友人たちに感謝します。

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ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。