友人の訴追通告書 その3 窃盗事件

「 A め、とうとうやってくれたわね。 A の友人の家に B の父親が所有している大型のバイクが預けたままになっていたんだけど、けさ B の姉が取りに行ったところ影も形もなかったんだって。 A の友人によると、バイクの件を知った A が来て、持ち去ってしまったとか。それで B の姉が A に電話をかけて問い詰めたところ、『バイクは慰謝料が支払われるまで差し押さえておく。返してほしければ25,000バーツを支払え』と要求してきたそうなの。 A め、本当に煩わしいオトコだわ。いったいどうすればいいと思う?」

午後、スィーロム通りにある珈琲屋 Bug and Bee へ行ってペーパーを書いていたところ、電話越しに友人が相談を持ちかけてきた。この話にある B とは、今月8日の日記にあるケーキ工場の女性経営者。 A とは、ケーキの宅配係の仕事を失って B に対して慰謝料を請求をしようとしている B の元カレのことだ。

友人の訴追通告書 その2 タイ弁護士評議会

2005.09.09

友人の訴追通告書 その1 警察署

2005.09.08

今回の A の行為は、明らかに窃盗罪にあたり、恐喝未遂罪が成立する要件を満たしている可能性もある。幸いなことに、盗まれたバイクの所在については A がすでに自白しているので、警察署に被害届を提出して、窃盗事件として立件されれば、これから A が起こすと息巻いている民事訴訟についても有利に展開することができるようになるだろう。そこで、「ただちに警察署へ行って、被害届を提出し、A を逮捕してもらうべし」とアドバイスしておいた。

その3時間後、ふたたび友人から電話があった。

「警察官といっしょに A の家へ行ってきたんだけど、バイクはどこにも見当たらなかった。どうも A がどこかに隠してしまったみたいなのよね。証拠がなければ何もできないと言って、警察官は帰ってしまったわ」

A は想像以上に賢かった。しかし、 A が B の父親名義のバイクを勝手に処分しようとしたところで、どうせ登録証などの必要書類をそろえることができないため、中古屋に売って現金化することはできないだろう。だから、 バイクを盗んだ本来の目的を果たすために、A は金銭を要求する内容の電話を再度かけてくるに違いない。そう考えて、 B に録音機能が付いている新型の携帯電話を貸して、電話がかかってきたら録音するように、と助言しておいた。通話記録を音声の録音とともにに提出すれば、さすがの警察も動かざるを得ないだろう。

さらに2時間後、友人から3度目の電話があった。

「どうやら A は怖気ついたみたいよ。逮捕を恐れて自ら出頭してきたわ」

さすがの A も、警察に逮捕・拘束されてしまったら民事訴訟を起こすこともできまい。ここはバイクの窃盗を根拠に A の不当性を最大限アピールをして、審問のときの A イメージをできるだけ悪くしておきたい。

ところが、電話を代わった B 本人はつぎのように語った。

「警察への被害届は取り下げることにしたわ。ここで前科者にしてしまったら、将来 A にとって致命的な汚点となりかねないから。バイクが戻っただけでも良かったと思わないと」

詰めが甘い。こんなことだから、いつになっても問題を根本から解決させることができないんだ!・・・・・・と個人的には思ったが、元カレをあまり追い込みすぎたくはないという B の心情も理解できる。せいぜい A には、今回のことを恩に着て、もう B を煩わせないでもらいたい。

今回も対応がすべて後手後手にまわってしまった。最初から A とのやり取りを録音しておけば、万事うまくいっていたはず。そもそも、 A の友人に対してバイクを取りに行くことを事前に知らせてしまったのは明らかに誤りだった。これでもし、 A がバイクを運河の底にでも沈めていたら、完全に打つ手がなくなっていたところだ。今回 B がバイクを取り戻せたのは、ひとえに A の犯罪計画能力が欠如していたからにすぎない。

それにしても、もう少しスマートに別れられないものだろうか? いや、スマートである必要まではないが、これではあまりにも無様すぎるし、なによりも見苦しい。

きょうは、スィーロム通りにある珈琲屋へ友人たちと出かけて、一日中タームペーパーを書き続けた。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。