MK の呪文

「今晩、何食べる?」

―― 何食べようか? MK へ行こう。

午後7時すぎ、友人を乗せてラッチャダーピセーク通りをクルマで走行中、帰宅ラッシュのひどい渋滞にハマっていた。かれこれもう2時間も経つというのに、ほとんど前に進んでおらず、話題も尽きてしまった。こういうとき、普通なら天気の話題でも振って沈黙を避けるところだが、あいにくと雨は降っておらず、陽が落ちて雲行きも分からなくなっていたため、やむなく夕食の話題を選んだ。

しかし、この渋滞のせいで、すでに夕食のことなんか、もうどうでも良くなっていた。この渋滞から今すぐに解放してくれるなら、きょうの夕食は5バーツの即席麺「マーマー」で我慢したって全然構わない。

ある経営学者によると、マクドナルドのセットメニューは、思考力に欠け、メニューのなかから商品を適切に選んで注文することができない愚かな消費者に対して、少しでも多くのカネを使わせるために開発された戦略商品で、なんでもいいから好きなものが食べられて、腹が満たされればいいと考えている消費者の心理を上手く利用しているという。

タイスキチェーン MK のテレビ CM は、タイの広告業界における大衆宣伝の傑作と言われている。第1弾(2002年)の「トゥングルークトゥングタオ(討論番組トゥングルークトゥングコンのパロディー)では、討論番組の著名な司会者であるソーラユットの役を演じている子供が「 MK で食事をとることは子供の野菜嫌いの改善に効果がある」と謳い、その後タイ人のあいだで広まった健康志向の牽引役となった。特に第3弾の「何食べる?」は、 TACT 最優秀テレビコマーシャル賞(2003-2004年度)をはじめ、最優秀大衆宣伝賞(食品部門, 2004年度)など受賞している。映画館での放映も想定して制作されているため、映像としてのクオリティーも高い。

渋滞のせいで思考停止状態に陥っていた僕たちにとって、その提案はまさに渡りに船だった。そうだ、 MK へ行こう!

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。