「タイではこのあたりが限界なのかもね」
午後10時50分、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階の自室で、テレビのチャンネルを替えていたところ、スピーカーからベッドがギシギシ鳴る音と、ものすごくセクシーな女性の声が聞こえてきた。何事かと思い、チャンネルを止めて画面を見てみると、コードレス電話機を持っている女性がベッドの上に立って飛び跳ねている映像が映っていた。それを見た友人は、冒頭のように話していた。
タイ映画「テレフォンセックス – 孤独放送局と隣家の女性」 (2003年)は、恐怖鬼のヘーマン・チェートミーとチャルームポン・ブンナーク監督によるロマンスコメディーで、RS Promotion系の Yoho Film が配給している。
主人公のドゥー(ビーム=ガウィー・タンヂラーラック演)は、高齢の祖父とふたり暮らしをしている自然を愛する温和で自然を愛する青年だ。家事全般を一手に引き受けており、その腕前は女性をも上回る。
隣家に住んでいるジェー(ポーラー・テーラー演)は、北部のチアングマイ県で両親と暮らしていたが、ひとりでバンコクへ引っ越してきたオーストラリア人とのハーフで、西洋的な環境で育てられてきたため、自立心が人一倍強く、プライドも高い。
ジェーには、ドゥーが理想としている女性らしさが欠けていた。住宅地のマナーに無関心で、近所の迷惑を顧みることもなく、深夜に家庭用のカラオケ機器を使って思いっきりシャウトしたりしている。本物の愛に出会うために、ひとりでも多くの男友達と交際しようとしているが、なぜか相手はゲイばかりだった。そんな事情を知らないドゥーは、夜明け前に男友達を自宅に連れ込んでは騒いでばかりいるジェーに対して強い嫌悪感を抱くようになり、次第にジェーに関するなにもかもがイヤになった。二人の反目は日を追うごとに深刻になり、後日、大きな問題を引き起こす。
ある日、ゲイのエンマーが、失恋して悲嘆に暮れているジェーに腹を立てて、腹いせに DJ メーン(アナン・ブンナーク)がパーソナリティーを務めている深夜の人気ラジオ番組「孤独放送局」にジェーの家の電話番号を投稿した。
運命の日。ジェーの家に、オドオドしてまったく要領を得ない不思議な電話がかかってきた。それを聞いたジェーは、変質者がいたずら電話をかけてきたものと思い込んで、撃退しようとテレフォンセックスの声を真似た。ところが、それは私用で休んでいる DJ メーンの代わりに、スタッフのドゥーがパーソナリティーを努めているラジオ番組の、リスナーへの電話だった。・・・・・・ジェーの恥ずかしい声は、生放送でオンエアーされ街中で話題となった。
こうして急展開を迎えた隣人ふたりの関係は、その後どうなるのか。
夜、ナラーティワートラーチャナカリン通りにある Connection Bar で友人たち3人と夕食をとった。そのうちのふたりは女性側の浮気が原因で今にも破局しそうなカップルで、オトコは取り乱して「浮気がちな女性と付き合うぐらいなら、話の分かるオトコと付き合ったほうがマシだ」と言い放った。ディナーは暗い雰囲気のままお開きになり、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階の自室へ戻って、友人とタイ映画「テレフォンセックス – 孤独放送局と隣家の女性」を見て地味にすごした。
クリスマスの夜を、こんな地味に過ごしてよかったんだろうか?
この時期、バンコクの男たちはみんな、古い友人や知り合ったばかりの友人たちから声がかかる。新年のカウントダウン、バレンタインデー、タイ正月の直前もそう。その電話に対応するだけで、精も魂も尽き果ててしまい、クリスマスを楽しむどころではなくなってしまった。