リタイア後のタイ移住はオススメできない

「おれが通っている語学学校には、毎日ノンエアコンバス(全区間運賃7バーツの冷房がついていないバス)で通学している日本人の高齢者が驚くほどたくさんいる。はじめのうちは将来を見据えて計画的にカネを使っているものと思い感心していたが、本人によくよく詳しく話を聞いてみたところ、なんとその高齢者はオンナを囲っていたんだ」

午後1時半、日本人向けの夜の歓楽街、タニヤ通りの薄暗い狭い路地にある屋台で、年長者の日本人男性と氷入りのハイネケンビールを飲んでいた。周囲には最新のタイポップスが鳴り響き、カラオケスナックの法定閉店時刻である午前1時とともに仕事上がりの娼婦たちが大挙して押し寄せてきた。

そのなかには、頭に捻りはちまきを巻いて娼婦を連れている日本人中年男性の姿もあった。自分の職業に誇りを持つことはとても素晴らしいことだが、せめて場所柄をわきまえた身なりぐらいはしてほしい。バンコクでそんな単純労働者のような格好をしていたら、「お国はどちらですか? イーサーンですか? ラオスですか? それともミャンマーですか?」と聞かれても不思議ではない。もしその姿を僕の友人たちが目撃したら、真っ先に自分の財布が盗まれないように警戒すること疑いない。

冒頭にある老人の話だが、バンコクの中間層すら乗るのをはばかるような貧困の象徴でもある「普通バス」で我慢している傍ら、金持ちだけに許されている「オンナを囲う」という道楽をしているそのギャップが可笑しくてならなかった。

「おそらく日ごろの出費をできるだけ抑えて、オンナを囲うことだけに集中してカネを使っているんだろうね。でもそのおじいさん、オンナに毎月20,000バーツの手当を支払っているのに、週に2日しか来てくれないとぼやいてたんだけど・・・・・・どう思う?」

かなり酒が回っていることを自覚しながらも、続きを聞きたいと言って友人を促した。

「手当として毎月20,000バーツしか払ってないということは、誰かとオンナをシェアしているんじゃないかと思うんだよね。それぞれ週2日ずつを3人でシェアしていると仮定すれば、週休1日で月収60,000バーツの計算になる。それぐらいの収入があればビジネスとしても成り立つわけだし」

バンコクにおける愛人契約の相場は、月々40,000バーツ前後といわれている。たった20,000バーツでは、都市部で働いている職務経験3年の大卒女子の月給にも満たない。

バンコクにおける愛人契約の相場

2005.09.22

「まあ、それで本人が納得しているのなら、真相なんて別にどうだっていいんだけどさ」

友人はこう言って話を締めくくった。

タイに来たところで、性風俗や売買春における基本的な構造は日本と何も変わらない。ところが不思議なことに、一部の日本人男性たちはバンコクに来るとその基本的なことすら忘れて(あるいは無意識のうちに無視して)、娼婦に対して一方的で自分勝手な妄想を抱くようになる。これはもう信仰と言っていい。その矛盾をどんな理詰めで説明してみたところで、分かってもらえることは絶対にない。

「おやじ、口くせえんだよ。やめろ、近づくな。キスしてくんな。もうマジでキモイんだよ!!」

相手が日本人の娼婦だったらサラっと言われてしまうこのようなキッツイ言葉も、タイへ来れば大丈夫。タイには年長者を敬う文化があるし、それにタイ人の女性はとても従順だから心配する必要はない。もちろん、二十歳そこそこの青二才にプライドを傷つけられることもない、とでも思っているのだろうか? そんなワールドが一部の日本人男性たちのあいだでは大腕を振ってまかり通っているようだが、そんなことがありえないということぐらい、女性経験がほとんどない男子校の高校生たちでも十分に想像できるはずだ。せっかく何十年も生きてきたのだから、その知識と経験を生かしてそろそろ物事の真実に気付いてほしい。あまりにも滑稽すぎて見ていられない。

数ヶ月前に出会った別の友人の日本人男性は、夜のオンナにカネを貢いでいるだけなのに、不思議なことになぜかそのことをさして「アプローチをかけている」と表現していた。

言うまでもなく、娼婦にカネを貢ぐという行為は信託銀行にカネを預けることとはまったく違う。利子がつくこともなければ元本も保証されない。出資した金額に見合うだけのサービスが受けられることも絶対にない。娼婦は、貢がれたカネは性的な奉仕の対価として考えているのだから、娼婦に貢いだカネはただ消えていくだけで、見返りを期待するほうが間違っている。

学校を卒業してからこの歳になるまで、ずっと身を粉にして働いてきたんだ。老後にオンナのひとりぐらい囲ったっていいじゃないか!

そんな気持ちも理解できなくはないが、世の中そう簡単にオンナを囲えるはずはない。もし日本では金がかかりすぎるといった理由であきらめて、それを実現するためにタイへ来たのであれば、タイでも金がかかりすぎるからムリだ。それに、人生の総決算ともいえる大切なこも時期に、「オトコとしてもっとも恥ずかしい買春」に手を染めて自らを貶めるのは、いかがなものだろうか?

タイには、学生時代の友人も昔の会社の同僚もいない。日本にいれば仲間に入れてもらえるはずの、近所の老人たちによるコミュニティーもない。

そのような環境で、一部の日本人の高齢者たちがタイ人娼婦の誘惑に負けてしまうのも仕方のないことだと理解はできる。しかし、その程度のことはタイへ移住してくる前に慎重に慎重を重ねて十分に検討しておくべき重要な事柄だし、そのような事態に直面する前にあらかじめ社交ダンスやゲートボールなどの活動を通じて日本国内で自分が幸せな老後を送るためにひつような伴侶をゲットしておくなど、できるかぎりの対策はしておかないと本当にマズいことになる。

日本で放送されている「リタイア後の海外移住」をテーマにしているようなテレビ番組では、若くて美しいタイ人の女性といっしょにタイの田舎で幸せな老後を送っている日本人男性の姿が微笑ましいのエピソードとともにいくつも紹介されているが、いつ、その女性との契約期間が満了して独りぼっちにさせられてしまうかなんて分かったもんじゃない。なかには、タイ人の女性にカネだけ取られて騙されたといったエピソードを紹介されることもあるが、そんなものは性的な奉仕の対価として女性に支払っていたカネを投資と勘違いしたすっとこどっこいの愚か者が、サービスの提供期間が満了したことにともない自分のもとを去って行った女性を逆恨みして嘆いているにすぎない。

だから、単身でのリタイア後のタイ移住は、あまりオススメできない。

現地の言葉を学ぶということは、自分の手で真実の扉を開くという行為に等しい。だから、もしタイ人やタイの文化に淡い夢を抱いているのなら、タイ語だけは絶対に学んではいけない。

昼すぎ、スィーロム通りにある珈琲屋にひとりで籠もって作業をした。夕方、タニヤ通りのカウンターバー Star 21 へ行き、日本人の男女4人でウイスキーをちまちまと飲んだ。その後、1時間500バーツの格安カラオケスナック dunhill でタイ語曲を熱唱した。

「それにしても、ケイイチ君は本当に娼婦をオンナとみなしていないんだね。こうやって観察していると、人としてみなしてるのかも怪しく思えてくるよ。もしかして、空気ぐらいの存在としか思ってないんじゃない? おれも娼婦は好きになれないけれど、彼女たちだってプロとしてのプライドをもって接客してるわけだから、もうちょっと話してあげてもいいのに?」

――あはは。カラオケ機器のリモコンや、ウイスキーの自動補充装置ぐらいには思ってますって。「空気」なんかにしてしまったらあまりにも可哀想ですし、呼吸するときに誤って吸い込んでしまったら、それこそ性感染症とかに罹ってマズいじゃないですか?

自分より年下の日本人女性にもホステスがついたのは滑稽でならなかったが、そっちでもホステスはウイスキーの自動補充装置として機能していた。会計時に、頼んでもいない「オフ代」(店に支払う娼婦の連れ出し料金)が加算されていたのには心底仰天した。こんなオバちゃんを持ち帰って、いったいそれでどうしろっていうんだ!?

すぐに女性のフロア責任者代理を呼んで会計伝票を訂正させて、料金を支払ってからタニヤ通りにある屋台で友人の日本人男性と午前5時まで酒を飲み続けた。

現地採用として働くにあたっての重要な心構えについて

2005.12.20

ポーイペート移住のススメ

2005.12.03

Wikipedia によると、タイでは性風俗業 การค้าประเวณี ガーンカープラウェーニー に従事している娼婦が、全国に130,000人もいるそうです。そこで今回は、その娼婦に関するタイ語の呼称をご紹介します(以降、括弧内は直訳または意訳)。個人的には、娼婦に対する見下し度合いを意図した通りに上手く上品に表現できる、 ① ผู้หญิงอย่างว่า プーユィングヤーングワー (卑婦・娼婦) や ② หญิงบริการทางเพศ ユィングボリガーンターングペート (性的サービス嬢) といった言葉を好んで使っています。ほかに有名なものとして ③ กระหรี่ グラリー (売女) という語もありますが、多用しすぎると自分の教養や品格が疑われるので、できるだけ使わないようにしています。それぞれの言葉の手前に อีเหี้ย イーヒア (この忌むべき○○め!) という語を付ければ、効果的に娼婦を罵倒することができます。これを聞いた女性は間違いなく逆上します。また、 ④ ไก่ ガイ (鶏) にも同じ意味合いがありますが、これは露出度が高くてヒョロヒョロしている黒い街娼といったイメージです。外国人らしく อีเบิร์ด イーバード と、外国語的な表現を使うとオシャレです。でも、世間一般のタイ人が使い慣れている表現ではないので、これを聞いた相手は混乱するかもしれません。 ⑤ อีตัว イートゥワ や ⑥ คุณตัว クントゥワ という表現はメッセージ性が弱いのであまり好きではありません。タイ語学校では ⑦ ผู้หญิงขายตัว プーユィングカーイトゥワ (売身婦) と ⑧ โสเภณี ソーペーニー (売春婦または淫売婦) の2語を教えています。なお、カラオケなどで働いている女性マネージャーを มาม่าซัง マーマーサング、その男性バージョンを แมงดา メーングダー と呼び、男性マネージャーの呼称についてはヒモといった意味合いで用いられることもあります。

4 件のコメント

  • 久しぶりにコメントします 売春婦についての見解がケイイチさんと近いのと リタイヤ者と言う立場が似ているので 以前にも述べましたが彼女らは特殊な環境に生活しているものであって 決してタイ人の全体像ではない そして彼女らと特殊な地域以外で接すれば 普通の人は不快感を感じる(日本では決して口に出せない話題、人種差別とか人権が?事実自分が学生時代、学んだ大学の教授がこの話題を講義でもちだし辞任させられた)そのことはこちらで売春婦を同伴している方々も日本で経験されたと思うのですが 日本の都市部では韓国や中国、東南アジア出身の下手な日本語を話す女の子(ホステス)を同伴しているのをレストラン等で見かけると違和感を感じる そんな経験をされた方が沢山いると思うけど それと同じことが結構外国では平気で行われている 自分もこの問題と大学卒業以来関わって来たが やはり社会構造を理解していないのと理解できない人が多い 特に戦後日本社会は階級なき社会主義のような教育を受けてきたのも関係しているのかもしれないし。。自分なりにこの問題について結論に達したのは その人(売春婦と関わっている人)にとって楽しくて楽なのではないでしょうか?普通の人や教養のある人だったらたやすく恋愛もセックスも出来ないし、まして興味のない話題などビジネス以外では話したくもないし まして中年以上の男性で若い女性と恋愛関係になろうと思えばよほど人間的に魅力が無ければ難しいのでは もちろん娼婦と恋愛関係になるのも非常に難しいと思います。
    ps. アジアにおける娼婦と中流以上の都市住民、この話題自分にとって非常に興味深い話題ですので1,2枚のレポートでは語りつくせません 機会があればこの問題を取り上げてのセミナーか何かあれば参加したいです。 

  • 久しぶりにコメントします 売春婦についての見解がケイイチさんと近いのと リタイヤ者と言う立場が似ているので 以前にも述べましたが彼女らは特殊な環境に生活しているものであって 決してタイ人の全体像ではない そして彼女らと特殊な地域以外で接すれば 普通の人は不快感を感じる(日本では決して口に出せない話題、人種差別とか人権が?事実自分が学生時代、学んだ大学の教授がこの話題を講義でもちだし辞任させられた)そのことはこちらで売春婦を同伴している方々も日本で経験されたと思うのですが 日本の都市部では韓国や中国、東南アジア出身の下手な日本語を話す女の子(ホステス)を同伴しているのをレストラン等で見かけると違和感を感じる そんな経験をされた方が沢山いると思うけど それと同じことが結構外国では平気で行われている 自分もこの問題と大学卒業以来関わって来たが やはり社会構造を理解していないのと理解できない人が多い 特に戦後日本社会は階級なき社会主義のような教育を受けてきたのも関係しているのかもしれないし。。自分なりにこの問題について結論に達したのは その人(売春婦と関わっている人)にとって楽しくて楽なのではないでしょうか?普通の人や教養のある人だったらたやすく恋愛もセックスも出来ないし、まして興味のない話題などビジネス以外では話したくもないし まして中年以上の男性で若い女性と恋愛関係になろうと思えばよほど人間的に魅力が無ければ難しいのでは もちろん娼婦と恋愛関係になるのも非常に難しいと思います。
    ps. アジアにおける娼婦と中流以上の都市住民、この話題自分にとって非常に興味深い話題ですので1,2枚のレポートでは語りつくせません 機会があればこの問題を取り上げてのセミナーか何かあれば参加したいです。 

  • > YUKIO さん

    お久しぶりです。たしかに日本で日本語を操るアジア人女性を見ると、なんだか異様なカンジがしますよね。きっと日本で活躍する正当な権利と資格を持っている女性もいるのでしょうけれども、本国に外国人娼婦を連れて帰る日本人のせいで、まるでアジア人女性全員が娼婦のように見えるという現象をもたらし、彼女らの権利が著しく侵害されているように思います。日本で活躍する正当な権利と資格を有するアジア人女性のためにも、当該地域の領事館には厳格なビザ発給審査をおこなってもらいたいと願っています。

    本来「売春はダメ vs 売春大賛成」となるべき議論が、本国に住む多くの日本人にとって「アジア人女性はダメ vs アジア人女性はOK」という議論と同義であるとみなされてしまうことが残念でなりません。

    結果として、こうした傾向が真面目に日本と向き合おうとしているアジア人女性や、人に胸を張って言えるような必然性のある出会いをしてアジア人女性と結婚した日本人男性に不当なダメージを与えているように思えます。

  • > YUKIO さん

    お久しぶりです。たしかに日本で日本語を操るアジア人女性を見ると、なんだか異様なカンジがしますよね。きっと日本で活躍する正当な権利と資格を持っている女性もいるのでしょうけれども、本国に外国人娼婦を連れて帰る日本人のせいで、まるでアジア人女性全員が娼婦のように見えるという現象をもたらし、彼女らの権利が著しく侵害されているように思います。日本で活躍する正当な権利と資格を有するアジア人女性のためにも、当該地域の領事館には厳格なビザ発給審査をおこなってもらいたいと願っています。

    本来「売春はダメ vs 売春大賛成」となるべき議論が、本国に住む多くの日本人にとって「アジア人女性はダメ vs アジア人女性はOK」という議論と同義であるとみなされてしまうことが残念でなりません。

    結果として、こうした傾向が真面目に日本と向き合おうとしているアジア人女性や、人に胸を張って言えるような必然性のある出会いをしてアジア人女性と結婚した日本人男性に不当なダメージを与えているように思えます。

  • ABOUTこの記事をかいた人

    バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。