「ステージで踊っている白い服の貴女! フロアのオトコたちはみんな貴女に釘付けですよ! 着ているシャツを今すぐ脱いで、みんなにセクシーなブラを見せてあげてください!! おお―――っと! フロア中央のテーブルのうえにピンク色の服を着ている美しい女性が立ち上がりましたぁぁぁ!! さあ、貴女も早くブラを披露して、ステージで踊っている黒色のブラに対抗してください! みんなノリノリかー? (オ――)今晩のオンナが欲しいかー? (オ――)黒い服着てきたオンナはみんなヤリマンだ!! まだ女の子をゲットしていないオトコたちよ、彼女たちは貴男にナンパされるのを待っているぞぉぉぉ! 気に入ったオンナを見つけたら、すぐに突撃をかけて口説き落とせ―――! (ウォ――)」
午後1時半、ラッチャダーピセーク6街路にあるディスコ Dance Fever で、 MJ が頻繁に音楽をミュートしては、過激な行動に走る女性客たちに対して矢継ぎ早に指示を出し、2,000人以上の酔っ払いを煽って回っていた。
「さすがにこれはちょっと下品すぎると思います。フツウにヒクし」
タイ語が分かる友人の日本人女性は、ウイスキー Johnnie Walker Red Label (700バーツ)のコーラ・ソーダ割りを片手に大声で耳打ちしてきた。たしかに、バンコクのハイソ・オシャレ志向の流行から考えるとあまりにもヘボすぎる。
ラッチャダーピセーク通りの6街路から8街路にかけてのパブ・ディスコ群は、バンコクではもっとも流行の伝播が遅いエリアとして知られている。女性客の大半は、その近くにあるソープランドやカラオケスナックで働いている地方出身の娼婦たちで、バンコクではもっとも簡単にナンパできるといわれている。娼婦は、タイ人の男性たちから完全に無視をされているため、競争率が低く、性的観念が欠乏していることもあって、声をかければ簡単に引っかかる。そこに、タイの諸事情に疎い外国人が殺到する。一部の日本人男性たちのあいだでは、娼婦が金持ちな外国人に飢えているためゲットしやすいという説が有力だが、実はタイ人をターゲットにしたところで相手にはされないから、何も知らない外国人狙いでいくしかないという別の事情がある。
バンコクにおける音楽の流行は、数年前まではトランスが主流だったが、いまではヒップホップに完全に取って代わられている。日本で新しいジャンルの英語曲が流行するとすぐに日本語のカバー曲が登場するように、ここ Dance Fever では、なんと、ヒップホップがイーサーン語(タイの東北部方言)でカバーされている。不慣れな方言で聞き取りにくかったが、ところどころに บํเป็นหยัง ボーペンニャン(標準語の ไม่เป็นไร マイペンライに相当)や บํฮู้ ボーフー(標準語の ไม่รู้ マイルーに相当)といったレーズが挿入されていた。
ダサい。あまりにもヘボすぎる。ハイソでオシャレを志向している都市部の中間層は、このようなノリを ລາວ(ラーオ)と呼んでバカにしている。ラーオとは、北にある隣国のラオスという意味で、非文化的でヘボダサイことの代名詞とされている。あまりのヘボさに、まわりを指差して思いっきり「ラーオ」と叫びたくなったが、さすがにラーオの中心でラーオと叫ぶのはヤバすぎるからやめておいた。
夜、15人規模の大学の飲み会に顔を出してから、ラッチャダーピセーク8街路にあるパブ「ハールー」へ行ってヂュラーロンゴーン大学に在学している日本人や日本語を学んでいるタイ人の大学院生たちと合流した。その後、ラッチャダーピセーク6街路にあるディスコ Dance Fever へ移動した。