タイで事務職の適性がない労働力を雇い入れる

「もうムリ。自分の部下をクビにするのは気がすすまないけれど、もう限界だわ。書類を作らせればいつも必ず間違える。もしそんな書類にサインをしてしまったら、わたしの能力まで疑われかねない。自分でしっかり見直しているから今のところは何とかなってるけど、もうヤバいなんてもんじゃないわよ。 รถยนต์ (クルマ)を รภยนตร とか書いてんのよ。もう信じられる? これなら小学校4年生を連れてきて代わりにやらせたほうがマシなぐらい。しかも、会社に来るのは週3日だけ。なんだかんだ理由をつけて、すぐに休む。きょうは『母の体調が急変』だったかしら? 会社に来ても友達とずっと携帯で話しっぱなしだし。もう救いようがないわ。情状酌量の余地なし。今すぐ次のコを見つけてきて交代させないと」

午後9時半、タニヤ通りにある居酒屋「魚ふく」へ行って友人と夕食をとった。なぜタニヤの居酒屋かというと・・・・・・今晩パブへ出かける約束をしていた別の友人にドタキャンをされ、フライデーナイトを部屋で地味に過ごすのもイヤだったから、日本人が娼婦しか連れて来ないような店に、あえてまともなタイ人女性を連れて行くというイヤミを思いっきり楽しもうと考えたからだ(最近、我ながら性格が悪くなってきたと思う)。

とある上場企業で働いている友人は、このように話していた。

この友人は、日本国内で働いている同年代の日本人 OL たちより良い給料をもらっているため、自分の月給の一部を使って個人的な事務員を雇い入れて仕事の一部を任せている。巨大掲示板群「パンティップドットコム」に求人を掲載して、中等教育学校2年(日本の中学校2年生に相当)までの教育を受けた地方出身の女性(18歳)を、タイの労働市場における相場より若干高い月給7,000バーツで雇い入れていたという。勤務時間は平日の午前9時から午後5時までの1日7時間。

このケースは、タイで起業した友人の日本人会社社長がよく話していた苦言にとても似ている。

バンコクに住んでいる一部の日本人事業主たちは、①外国人向けの性風俗施設で働いている娼婦と結婚し、②配偶者が交際している交友関係(=娼婦階級の下層コミュニティー)から従業員を選抜して採用し、③能力的に問題のある従業員を大量に抱え込んで、④タイ人を頭が悪い劣等民族と決めつけて、⑤(症状がひどくなると)自ら国王を僭称して即位してしまうことがある。

しかし、その過程を詳細に分析してみると、①タイ人のなかでも特にレベルが低い女性としか結婚できず、②自分が属している低レベルなコミュニティーのなかからしか人材を選ぶことができず、③タイ語同士でも意志の疎通ができないようなアホと中途半端な英語でコミュニケーションをとろうと試みて当然のように失敗し、④アホなコミュニティーのメンバーたちを理解するために自民族中心主義(エスノセントリズム)を持ち出して、⑤オレ様ワールドを作り上げて自ら国王を僭称することで自己完結してしまう、という深刻な問題を抱えていることが分かる。

これは、自己愛性精神障害の典型的な症状だが、小資本家が国王を僭称するなど言語道断だし(不敬罪に該当する)、前期中等教育すら受けていない16.5%だけを見てタイ人を劣等民族と決め付けるのもフェアではない。むしろ、タイ人すら相手にしていないような娼婦しか周りにいないという自分の境遇をこそ恥じるべきだ。

友人のタイ人女性は、前出のバンコク在住の一部の日本人事業主のケースと異なり、①娼婦を配偶者としておらず、②タイ全国から広く人材を収集することができ、③タイ語でコミュニケーションがとれ、④自民族中心主義を持ち出す必要もなく、⑤アホみたいな結論を出さずに済んでいる。元娼婦の配偶者を解任できないバンコクにおける一部の日本人事業主たちとは違って、月々7,000バーツもあれば、バンコク在住の中等教育学校後期課程卒のほか、高等専門学校後期課程卒や下位の私立大学卒からもっとも適した人物を自由自在に採用することができる。

深夜、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階にある自室で、パソコンの前に座っていた友人がオンラインの求人票を見て声を上げた。

「あっ!? このオンナ、大学時代に付き合っていた私の元カレと浮気をしていたヤツよ。まさか、こんなところで再会しようとは!」

きょうは、スィーロム通りにある珈琲屋で作業をしてから、タニヤ通りにある居酒屋「魚ふく」へ行って友人と夕食をとった。梅酒を勧めたところ、とても気に入ってもらえた。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。