「これからアンパワーへ行くけど、あなたも一緒に来る?」
午前11時、フワヒン80街路にあるホテル Crystal をチェックアウトして、市内の食堂で朝食をとっていたところ、友人に冒頭のように訊かれたが、そもそもアンパワーが何物なのか分からないことには答えようがない。タイの北部にあるメーホンソーン県パーイ郡が、一昨年あたりから観光地としてタイ人たちのあいだ人気になっているのは知っていたが、アンパワーに関しては聞いたことすらなかったので、インターネットで調べてみた。
アンパワーは、サムットサーコーン県の西部にある郡。人口57,260人、人口密度366人/km²の小さな街で、ペッブリー県に隣接している。主な産業は、ココナッツをはじめ、ザボンやライチなどの果樹栽培やエビの養殖で、アユッタヤー朝のプラサートーン王(サンペット5世, 1629-1656)の治世には交易地として栄え、「バーングチャーング水上市場」として知られていた。
現在のアンパワーにあるチャイパッタナーラック水上市場は、タイの伝統文化の再生、とりわけ地域社会の経済的な充足を目的として、プラテープ王女が代表を務めているチャイパッタナー財団が建設したもので、毎週、週末のみ開かれている(金曜日15:00-22:00, 土日祝日12:00-22:00)。日没後の数時間は、付近にある運河でホタル狩りが楽しめる。
まあ、近年のタイにありがちな懐古主義的な観光開発(古き良きタイ文化を再現することによる観光開発)の一環だろう。一昨年から流行っているタイ北部のメーホングソーン県パーイ郡にしてもそうだが、タイ人は「復元(創造?)されたタイランド」が大好きなようだ。
午後1時50分、サムットサーコーン県アンパワー郡にあるコテージ「水上縁側庭園の家」に到着した。宿泊料金はコテージ1軒につき1,500バーツだった。ホタル狩りの名所とされているプラチャーチョムチューン運河の畔にあって、向かいには仏教寺院のワットナーングピムがある。直前になって予約を入れたため人数分の部屋を確保することができず、今晩は6人で雑魚寝することになる。午後2時20分、サムットサーコーンの市営市場へ行って、今晩のバーベキューに使う海産物などを調達した。
午後4時20分、コテージ「水上縁側広場の家」の前から、小型のボートを600バーツでチャーターして、アンパワー・チャイパッタナーラック水上市場へ向かった。この市場は、伝統的な土産物を手ごろな価格で調達するのに適しており、タイの伝統菓子を食べ歩きすることもできる。外国人の観光客に人気があるダムヌーンサドゥワック水上市場とは異なり、バンコクを昼過ぎに出発しても水上市場を見物できるのは魅力だ。
午後6時40分、アンパワー・チャイパッタナーラック水上市場の前から、小型ボートでプラチャーチョムチューン運河へホタル狩りに出かけた。東南アジア地域に生息しているホタルは、日本にはないペトロプテックスという種類で、タイ語では単に หิ่งห้อย(ヒングホイ:ホタル)と呼ばれている。運河の暗闇のなかを小型ボートで走り抜け、ココナッツの木の上で輝いている黄緑色の光を見つけるたびに、みんなでホタルを指さして歓声を上げた(友人のひとりは、なぜか犬の遠吠えをしていた)。午後7時50分、コテージ「水上縁側広場の家」のバルコニーで友人たちとシーフードバーベキューを食べ、午後10時50分に就寝した。