「お給料のほかに、もらってしまっていいんですか?」
昼、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite の14階ロビーで、17階の自室の清掃を週2回、月々1,000バーツで委託している清掃婦(メーバーン)と偶然に会った。先日、僕の不手際で買い置きしておいたゴミ袋を切らしてしまい、清掃婦が近所にある商店へ行って買ってきてくれたため、せめて実費ぐらいは渡しておかなければ申し訳ないと思い、財布から取り出した35バーツをそのまま手渡したところ、頭をひょっこりと下げて何度も礼を言ってくれた。
部屋の掃除は、この清掃婦にこれまで約1年半ずっと任せっきりにしているが、いつも完璧にやってくれている。しかも、僕の都合に合わせて、清掃の日時を柔軟に変更してくれるから本当に助かっている。室内には現金が無造作に散乱しているが、これまで一度も盗られたことはない。
バンコクの日本人駐在員社会では、清掃婦による窃盗事件が多発しているため、前任者による紹介状がないと雇い入れないと聞いている。しかし、日頃からコミュニケーションを密にとっておけば、清掃婦の性格を推し量ることはそれほど難しくないし、許容範囲を超えるようなストレスを与えなければ無茶をしてくることもまず考えられない。
清掃婦たちの多くは、貧しい農村部からの出稼ぎ労働者で、教育のレベルも著しく低い。しかし、バンコクの都内にあるコンドミニアムで住み込みで働けば、管理会社から支払われる約5,000バーツの月給に加え、さらに5,000バーツ程度のアルバイト収入(僕の部屋の清掃費など)を得ることもできる。ポーホック(タイ教育省主催の小学校6年生相当のタイの能力検定)に合格できなかった日本人が書いたかのような、ヘンテコなタイ語の書き置きを見るたびに唖然とさせられているが、それでもこの清掃婦は信頼している。
世の中には、魂を麻薬に捧げて身体を売っているタイ人の娼婦を信じ疑わない愚かな日本人がたくさんいるが、そんなのに比べれたらこの清掃婦のほうが100倍は信用できる。教養がないのは同じでも、心意気がまるで違う。