「そんなに警察で道を尋ねたいんだったら、自分で行って聞いてきてよね。あなただったら、外国人ということで、もしかしたら親切に教えてもらえるかもしれないから」
タイ中部のトラート沖約5.5kmの地点にあるチャーング島へ向かう道中、カンボジアに隣接しているトラート県のムアングトラート郡で友人と夜を明かすことになった。
午後6時、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite を出発し、帰宅ラッシュの渋滞にハマりながらも、午後7時半にはバンコク南東部にある Central City に到着した。マクドナルドへ行って85バーツのビッグマックセットを食べ、そこからふたたびクルマを走らせて、南東へおよそ340km行ったところにあるムアングトラート郡へ向かった。
地方の幹線道路では、ガソリンスタンドがいわゆる「道の駅」の役割を果たしている。小さな集落では、村唯一のオシャレスポットとなっていることもある。いくつもあるタイのガソリンスタンドチェーンのなかでも、JET は清潔なトイレのほか、なんでも揃うミニショップ Jiffy が併設されており、圧倒的な人気がある。
トラートまでの道中、今回は2件の JET に立ち寄った。1件目は給油とおやつの調達のため、2件目は観光ガイドブックの調達のためだった。ところが、2件目の JET に併設されている Jiffy から出てきたところ、自分のクルマの横わずか1メートルのところで、バイクに乗った少年たちによる乱闘事件が発生していた。幸運にもクルマには傷を付けられていなかった。
途中、強烈な眠気に襲われ、一時的に目的地をトラートの手前203kmにあるムアングラヨーング郡に変更したため77kmも迂回することになったが、それでも午後11時半には当初の予定どおりトラート県庁前の広場に到着した。
ムアングトラート郡は、カンボジアに隣接しているトラート県の県都だが、市街地の規模はとても小さく、宿泊施設もほとんどなかった。道中で見かけたホテルはどれもボロアパート同然といったカンジで、特に「トラート市ホテル」にいたっては、トゥックテオ(商用長屋)そのもので、とても僕たちが泊まれるような施設ではなかった。しかも、観光ガイドブックが手元になかったため、事態打開のための策を自ら見出すこともできず、ますます落ち込むばかりだった。こんなことなら最初からラヨーングで一泊しておくんだった。
こんなとき、もし日本にいれば、近くにある交番へ行って道案内を頼むところだ。しかし、タイの警察は、「地域住民に貢献する」というより、むしろ「地域における治安秩序の管理者」といった性格のほうが強い。もちろん道案内なんか任務には含まれていないし、そもそもタイには警察官に道案内を頼むという習慣がない。
さっき通過したばかりの県庁前広場へ戻って、冒頭にある友人からの助言にしたがって、外国人丸出しの風体で、トラート市警察本部の正面玄関口へ足を踏み入れた。
結局、警察署では地図を開いて丁寧に道案内をしてくれることはなかったが、トラート市内で2番目にまともなホテルがすぐ近くにあると当直の巡査たちに教えてもらった。
「わたし、こんなひどい部屋で寝泊まりしたことなんかないんだけど……」
エスエーホテル(一泊500バーツ)は、リゾート気分で泊まるホテルとしては、ちょっとあまりにもひどすぎた。