「ひゅーひゅーひゅー! そこの彼氏、セックスはどうだい?」
どうだいって言われてもねえ。それに、そのひゅーひゅーっていうのはいったい何なんだ。
午後11時、スィーロム通り沿いにある珈琲屋 Coffee Society を出て、タクシーを拾うために百貨店 Robinson 前の薄暗い歩道をプララームスィー通り(ラーマ4世通り)へ向かって歩いていたところ、付近を徘徊している男が声をかけてきた。
これまでも深夜のタープラヂャン船着場の前やスラウォング通りなどで、美形といって差し支えない容姿の男娼たちをたびたび目にしてきたが、いつもクルマで通りかかるだけだったため、身の危険を感じたことはなかった。しかし、無防備な状態で歩いているときに、性行為の話を同性から持ちかけられると、あまりのリアルさとおぞましさに身の毛がよだつ。しかも、無視して立ち去ろうとしたところ、1メートルぐらいの間隔をあけて跡をつけてきたから、本当にもう発狂寸前になった。
街灯があるプララームスィー通りのバス停まで早足に移動して、そこから急いでタクシーに乗り込んだ。このことをすぐ友人に愚痴って、少しでも気持ちを落ち着かせようとしたが、いま携帯各社が実施している音声通話定額プランのせいで回線がパンク状態になっていたため、誰にも繋がらなかった。本当にツイてない。
スィーロム2街路の周辺に男性の同性愛者が多いことは周知の事実だし、その近くにある珈琲屋に同性愛者の客が来るのも仕方ないと諦めている。これまで、珈琲屋で、すぐ近くの席にいる同性愛者たちが「ふぅんふぅん」という気色の悪い声を発するのも、目で犯すかのような視線で長時間こちらを見つめてくるのにも耐えてきた。僕や友人たちは、この1年間で、同性愛者たちの存在は無視することが精神衛生上もっとも良いと学んでいた。が、ここまであからさまなことを言われると、さすがに無視するのにも限界があるとを悟らざるを得ない。
きょうは、スィーロム通りにある珈琲屋へ友人と出かけた。グルングテープ大学のインターナショナルプログラムに通っている別の友人から、「今学期の学費43,000バーツが払えないんだけどどうしよう」という相談を持ちかけられたが、正常な生活を送っている善良な市民に対して、まさか社会の最底辺がやるタニヤ嬢のようなことをしろとも言えないから、大学の学生課や銀行の融資課に奨学金がもらえないか掛け合ってみてはどうかとアドバイスしておいた。それがダメなら、学費が比較的高いインターナショナルプログラムをやめて、同じグルングテープ大学のタイ語課程(約28,000バーツ/半期)やほかの私立大学(約18,000バーツ/半期)に編入するか、もしくは、今学期の休学はやむを得ないと諦めるしかないだろう。タニヤ通りにある日本料理屋へ行って友人と夕食をとってから、ふたたび珈琲屋へと戻った。