きょうの講義内容

午後1時23分、イスラーム研究の講義が始まってから約20分が経過していた。ヂュラーロンゴーン大学の文学部4号館にある、年季が入っている木製の扉を手前に引いて、教室のなかへ足を踏み入れたところ、きょうのゲスト講師、ペットダーオ・トミーナー女医と目が合った。そのすぐ近くに座っていた東南アジア研究所の主任教官が、こちらをものすごい形相で睨みつけてきている。申し訳ないと思って、軽く会釈をしてから空席を探した。

今学期の特別講座「イスラーム研究」は、主任教官のコネクションをフルに活用して、著名な先生方をゲストに招き、莫大な研究予算を費やすことで、ようやく実現したという。そのため、主任教官からは必ず出席するようにと強く念を押されていた。

ヂュラーロンゴーン大学大学院東南アジア研究科の講義は、さまざまな研究課題を学術的な見地から検証し、さまざまな言語で書かれた論文をもとにして、さらに掘り下げて研究していくという手法がとられている。しかし、たかだか3時間程度の講義では、完全に理解するのは不可能だし、仮に理解できたとしても、その内容を説明するためには膨大な時間と文字数が必要になる(っていうか、日記の題材としてはテーマが大きすぎて扱いきれない)。そのため、このブログでは、「日常の生活と関わりがない事象については扱わない」という方針を採っているが、きょうは気分転換を兼ねて、授業の様子について簡単に触れてみたい。

イスラーム研究の講義を担当したのは、先々週がナコーンラーチャスィーマー県選出の上院議員で上院外務委員長を務めているグライサック・チュンハワン氏(タイの第23代首相を務めたチャートチャーイ・チュンハワン陸軍大将の長男)、先週が内務省顧問官(深南部担当)のウィチット・ヤーティップ陸軍大将だった。

今週の講義では、タイ深南部問題の原点を探るために、イスラーム人権活動家のデン・トミーナー元内務大臣の娘で、国民和解のための国家自由委員会精神衛生センター第17区(ヤラー県・ナラーティワート県担当)の理事長を務めているペットダーオ・トミーナー女医をゲストとしてお招きした。

「パッターニー、ヤラー、ナラーティワートの深南部3県では、警察官による出世のための点数稼ぎとして、市民、特にイスラーム教徒の人権を踏みにじるような行為が、戦前から繰り返されてきました。それが深南部3県における反政府運動の原点となっているのです」

それ以外にも、イデオロギー的な対立もあるという。

戦時中、タイのピプーン・ソンクラーム陸軍元帥による内閣は、国家主義 รัฐนิยม(ラッタニヨム)を掲げて、タイの近代化と国民の統合を図った。そのときに、タイ人のあるべき姿として、同一の君主(国王)、同一の言語(タイ語)、同一の宗教(仏教)という3つの要素を前面に押し出したため、 イスラーム教、イスラーム神、マレー語(またはアラビア語)のもとで団結しているムスリムたちの主体性は大きく損なわれ、そのときにできた対立が現在まで続いているという。

講義終了後、スクンウィット13街路にある住まい Sukhumvit Suite 17階の自室に戻ってシャワーを浴びてから、スクンウィット33街路にある居酒屋「姉御」へ行って友人と酒を飲んだ。テキパキと動く従業員たちの姿は、見ていて心地よかった。まるで客に不満をぶつけているかのように、ムスッとしてダラダラと働いている従業員ばかりの他店には、ぜひこの店を見習ってもらいたい。

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バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。