タイの地方における拳銃事情

「地方へ出かけたときに、ほかのクルマを煽るのは、とても危険だから絶対にやめておきなさい。ここバーングセーンには、家屋の数と同じだけの拳銃があると言われているのよ。モーブー(チョンブリー県にある国立のブーラパー大学)では、些細な揉め事が原因の発砲事件が相次いでいるぐらいなんだから」

クルマでチョンブリー県ムアング郡(人口193,736)の市街地を走行していたときに、自動車専用国道7号線(モーターウェイ)で、前方を走っていたドイツ車を時速140キロで煽り続けたことについて、藪から棒に友人たちから忠告を受けた。

そのときは「自分が殺されるぐらいなら、その相手を殺して牢獄に入った方がマシだ」と冗談まじりに応じたが、実際のところ、それほど悠長に構えてもいられない。大衆社会の日本では、失うものがない社会的な地位の低い人ほど VIP のように傍若無人な振る舞いをしているが、タイではそこそこの相手に対して生半可な覚悟で喧嘩に挑むと、それこそ血生臭い死闘へと発展する可能性がある。タイ人の安全弁は、日本人より外れやすいものと心得ておく必要がある。

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しかし、法治国家のタイで拳銃をぶっ放せば、とうぜん警察には逮捕されるし、大学からも除籍処分を受けることになる。数年前までは、どんな事件でもカネとコネさえあれば解決できると言われていたタイの司法事情だが、ここのところ社会全体の綱紀粛正が急速に進み、巨額な賄賂を支払えるだけの経済力以外にも、司法当局の担当者を暗殺できるぐらいの実力がないと、殺人をはじめ麻薬や徴兵逃れといった重大犯罪にともなう刑事罰から免れることはできない。

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昼すぎ、チョンブリー県ムアング郡のバーングセーン海岸にある海鮮料理店「ワングムック」へ行って、日本では気軽に食べることができない新鮮な海鮮料理の数々を友人たち3人と腹一杯になるまで食べた。全6品で合計860バーツだった。高速道路の通行料金130バーツは友人たちの負担だったが、僕は約550バーツのガソリン代を負担していたため、食費の支払いを免除された。

一部の日本人たちのあいだでは、「タイ人には割り勘という発想がないから、比較的裕福な日本人が奢らなければならない」と言われているが、金儲けのために恋愛をしている娼婦のような相手でもなければ、たいていのタイ人は自らすすんで割り勘にすることを申し出てくれる。そうしないと対等な友人関係を維持することが困難になるだろうし、タイ人のメンツとプライドが保てなくなるといった問題も生じる。ただし、相手にとって自分が直属の上司である場合には奢らなければならない。食事をとるときに、友人たちがきちんと食費を分担してくれるかどうかで、そのグループにおける自分の立ち位置を計り知ることができるかもしれない。

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午後8時頃にバンコクへ戻り、タニヤ通りにある「スター21」へ別の友人たちと出かけた。最初に電話口で店の名前を聞いたときには、日本人向けのカラオケスナックではないかと疑ったが、実際に行ってみたところ、カウンターに配置されているウエイトレスの数が異様に多いだけの普通のバーといったカンジで、誰かと語り合いたいときには重宝しそうな店だった(もしかしたらひとりで行っても楽しめるかもしれない)。

店を出てから、タニヤ通りをふらついていたところ、道端の屋台で酒を飲んでいた日本人向けのカラオケスナックで働いている見ず知らずのホステスたちに引き込まれて、その飲み会に午前3時まで付き合わされた。タイ人の娼婦たちが置かれている窮状について、しっかりと正しい理解をしていれば、娼婦たちが「そうだ、その通り!!」と相づちを打ちたくなるようなクリティカルな合いの手を、日本人という美味しい立場から連発することができる。帰宅して、洗面台で顔を洗おうとしたところ、自分の腕に縁日などで売られているような緑色に光る蛍光の腕輪がくくりつけられていることに気が付いた。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。