「もし週末にいらっしゃるのでしたら、あらかじめご予約を入れておいてくださいね。ご覧のとおり、平日の夜でもこの混みようですから、週末はすぐに満席となってしまいます」
夜、スクンウィット20街路にある日本食ベースの多国籍料理店 KOI Restaurant (鯉)で、接客係がアドバイスをくれた。
今晩のメンツは、友人の会社社長のほか、その社長秘書、タイ財閥系企業の経営者、タイ政府高官、経営者の友人の6人。日タイ合弁会社の設立に関するビジネスディナーで自分に与えられていた仕事は、日本における取扱商材の認知度とその効果について、自分なりの解釈を織り交ぜながらタイ語で解説するというものだった。
店内には、赤と黒を基調としたソファーが並び、テーブルの上には不思議な日本料理に数々が乗っていた。この店の系列店はアメリカのロサンゼルスやニューヨークにもあるらしいが、ロサンゼルスに留学していたとき(2003年)に友人のタイ人たちとイヤというほど通いつめたあの怪しげな Sushi Bar とは違って、とても美味しかった。特に、牛肉がやわらかいのは印象的だった。カウンターの向こう側には、西洋人のほか、日本人やタイ人のシェフたちが並んでいて、客はタイ人が50%、日本人をはじめ西洋人などの外国人が50%といったカンジだった。
「まわりの席にいる人たち、みんな芸能人よ」
日本語が堪能な社長秘書に促されるまま周囲の様子を見渡してみたところ、たしかに特別な雰囲気を放っているタイ人の若者たちがいたるところにいた。西洋人の DJ によるワインバーが併設されており、ディナーのあとに味わうオシャレでカジュアルな雰囲気は、商談のダメ押しに効果的かもしれない(バンコク都内にある外国人向けの料理店で、商談の場として、これほど良い店はほかに知らない)。
今回の商談は、タイの国内における政治的な影響力がカギとなっていたため、タイの政治家に関する情報について日本人の会社社長から何度も尋ねられたが、そのたびに自分の「タイ内政」に関する知識の貧弱さにウンザリとした。コネがものをいうタイの社会では、それぞれの勢力の利害関係ぐらいは知っておかないと、ちょっとマズいかもしれない。どうせ、みんな裏では仲の良いお友達なんだろうが、それでもせめて、それぞれの政治家が得意としている分野ぐらいは把握しておきたい。
昼すぎ、高架電車のアソーク駅前にあるホテル Sheraton Grande Sukhunmvit に入っているイタリア料理店 basil へ行って、昼食をとりながらタイ内政に関する自分の意見を述べてから、スィーロム通りにある珈琲屋へ行った。夜、スクンウィット20街路にある日本食ベースの多国籍料理店 KOI Restaurant へ行って、日系企業の社長に対してはタイ社会について、財閥系企業経営者に対しては商材の魅力について説明しながら夕食をとり、ルワムルディー通りにあるワインバー Bacchus へはしごしてワインを飲み、その後、スクンウィットで23街路にあるイタリア料理店 GIUSTO へ行ってワインを飲みながら反省会をした。
赤ワインを飲みすぎたせいか、帰宅後に洗面所の鏡を見てみたところ、前歯が吸血鬼のように真っ赤になっていた。