バンコクに住んでいる日本人なら知らない人はいない、かの有名なタニヤへ初めて出かけた。
タニヤとは、バンコクにおける商業の中心地スィーロム通りから伸びる幅8メートル長さ230メートルの街路の名前で、いくつか商業ビルもあるが、日本人のあいだではもっぱら日本人向けのカラオケスナックがひしめき合っている界隈として知られている。
カラオケスナック VIP 鶴の細い階段を上るとさっそく店の奥へ案内され、ボックス席に腰を下ろすと周囲の照明が明るくなって目の前にホステスたちが整列した。そのなかからひとりを選んで一緒にカラオケを楽しむのがこの店の趣向らしいが・・・・・・
「きょうお店の人たちとパッタヤーへ行ってきたのよぉ。チョーツカレタ~」
こんなカンジで僕が選んだホステスはヤル気ゼロだった。これでは無言で密着して座っているだけの役立たず以外の何者でもない。タイに来て以来はじめての日本語カラオケで満足し、逃げるように帰宅した。料金はふたりで2,830バーツ(2人分の席料+ボトルキープ可能なウイスキー+ホステス2人30分)で友人が奢ってくれた。日本と比べれば激安だがサービスの内容にはまったく納得がいかない。
「これは誰もが経験する登竜門みたいなモンだよ」
友人はそう言って苦笑していた。こんなことならふつうのタイ人学生とふつうの会話をしていた方がよほど楽しい。タニヤ通りの日本人向けカラオケスナックはタイ語が話せない孤独な単身赴任者が癒しを求めに行くために存在しているのかもしれない。
ホステスによると、この店のオーナーはタイ人で客層は20代後半から30代前半がもっとも多いという。