タイ人が嫌いな国。アユッタヤー朝時代の王都アユッタヤーがミャンマーのコンバウン朝によって徹底的に破壊された1767年以降、それはずっと西の隣国ミャンマーであり続けた。ところがその地位は一夜にして東の隣国カンボジアに取って代わられた。
カンボジアの首都プノンペンで28日、カンボジア国内の反政府勢力によって暴徒化した市民たちがタイ大使館を焼き払う事件が発生した。これに激怒したタイ首相のタックスィン・チンナワットはプノンペン駐在の大使を含むすべての大使館員を本国に召還して、外交レベルを臨時大使級へ引き下げた。さらに大使館の安全を確保するという理由で軍の特殊部隊をカンボジア領内へ派遣すると息巻いている。
憤慨しているのは首相ひとりではない。タイの民衆の怒りも相当なもので、バンコク都内にあるカンボジア大使館の前では大規模な抗議集会が連日のように行われている。テレビ各局も著名人の論評を交えながらこれを大々的に報じて、こう視聴者たちに訴えかけている。
「何よりも落ち着くことが肝要です。カンボジア人の財産には絶対に危害を加えないでください」(元陸軍総司令官)
タイ人がここまで憤慨しているのは、単にタイ大使館が襲撃をされたという理由だけではない。カンボジア人の暴徒の一団が大使館に侵入したとき、大使館内に掲げられていた国王の肖像が屋外へ引きずり出され踏みつけられたからだ。
その報道を見たタイ人なら誰もが涙ぐみながら声を荒げてカンボジア人を口汚く罵るだろう。それに比べればエーンの反応はとても冷静だったけれど、その口から出てきた言葉は辛辣を極めていた。曰く、
「陛下の肖像を踏みつけるなんて、アレは人間じゃないわ」
今回のカンボジアに対するタイ国内の抗議運動はタイ国王による制止の言葉ひとつで解散したという。