クルマがなくても生活することはできる。語学学校なら徒歩で通えるし、買いものに出かけるときには同居人のポーがクルマを出してくれる。だけど、日本人的にはあり得ないほどマイペースなポーのスケジュールに合わせて行動する必要があるため、自分のスケジュールが立てられないばかりか、日を追うごとにポーに対する立場が従属的になっていくのが辛すぎる。こんなことならアメリカ到着と同時に中古車屋へ直行しておけば良かった。
当初の計画では午後に中古車屋へ連れて行ってもらえることになっていたけれど、実際には正午から午後2時までコルフの練習に付き合わされ、挙げ句の果てには疲れたと言って中古車屋へ行かないままシェアハウスまで戻ってきてしまった。
「早く起きて中古車屋へ連れて行ってくれよ」
こんな頼み方を約束を反故にした相手にせざるを得ない理不尽にはこれ以上耐えられそうにない。どんなに割高でも手っ取り早くクルマを手に入れて一刻も早く自分の立場を回復させたい。
午後4時15分にポーを無理矢理ベッドから引きはがして中古車屋めぐりに出発した。およそ1時間のあいだに中古車屋を3件まわって良さそうなクルマを見つけた。
1994年式, TOYOTA CELICA GT, 赤色, 排気量2,200cc,走行距離78,300マイル, 価格6,500ドル。
これまでいろんな人からもらったアドバイスをもとにクルマをチェックしたところ事故車ではなさそうだった。
ジェフ(中華料理店店主)「エンジンルームにひとつでも新しいネジがあったらそれは事故車だ」
日本人中古車店店員「製造番号を示すステッカーに塗料が付いていたら、その部分は再塗装したってことだから事故車の可能性が高い」
友人たちから勧められていたとおり中古車屋の店員と粘り強く価格交渉を続けた。
エディ(語学学校講師)「クルマを買うときには新車でも価格交渉したほうが良い。店頭表示どおりの価格で買っても店員を喜ばせるだけだ」
ポップ(タイ料理店店員)「どうせ表示されているのはいい加減な価格なんだからゼッタイに値引きしてもらったほうが良い。相場より1,000~2,000ドル高いこともある」
価格交渉の結果、表示価格6,500ドルに対して6,000ドルまで値引きさせることができた。試乗してみたところ特段問題なさそうだったので、カリフォルニア州の自動車売買税(約定価格の8%)480ドルを加算した合計6,480ドルを Bank of America の銀行小切手で支払ってクルマのキーを受け取った。中古車屋の店員は「あなたの口座に十分な預金残高がなかったら、きょうお渡ししたクルマは差し押さえに伺います」と釘を刺すのを忘れなかった。
帰宅後にドライブを兼ねてポーとダウンタウンLAにあるリトルトーキョーへ行く途中で速度計の照明が切れているのに気づいた。中古車についてはカリフォルニア州のクーリングオフ制度の適用対象外だけど、引渡後1週間以内のエンジン・タイヤ・電装品の不良なら無償で修理してもらえる契約になっているから、さっそく月曜日にでも修理を依頼したい。不慣れな右車線を制限速度を守りながら走るのにひどく苦労した。
これまでクルマがなかったためずっと我慢を強いられてきたけれど、おかげで約3週間タイ人と行動をともにして現地のタイ人コミュニティーに深く食い込むことができたから良しとしておきたい。