午前10時、ヂュラーロンゴーン大学文学部ボーロムラーチャグマーリー館の706教室に、60歳の日本人受講生は姿を現さなかった。
この受講生は、講師がタイ語の文法事項について英語で説明している最中に、横から日本語で僕に話しかけてくることがしばしばあって、理解の妨げとなっていた。こっちも不得手な英語をなんとか聞き取って、授業についていくので必死なのだ。
しかも、日本語を理解できないほうが悪いと言わんばかりの勢いで、講師に対しても平然と日本語で話しかけていた。
インテンシブタイの講師は、タイ文学や西洋諸国語を専門としている。とうぜん、日本語で話しかけたところで、会話が成立することは天地が逆さになってもあり得ない。この受講生に対して、講師は英語やタイ語を使って何度も辛抱強く聞き返していたが、そのたびにイライラを募らせた様子で日本語を話し続けたので、あまりにも痛々しすぎて見ていられなかった。
これまでまったく復習をせず、ろくに新出単語を覚えていないにもかかわらず、いつも自信満々な様子で ไม่เป็นไร(マイペンライ:大丈夫)と豪語していたが、今頃になってようやく自分が授業にまったく付いてこられていないことに気づいたのだろうか。
この授業の進度では受講生のなかにいつ脱落者が出てもおかしくないとは思っていたが、それにしても早かった。
もし仮にきょうまでに出てきた単語をひとつも覚えていないとしたら、開講8日目の先週末までの時点ですでに463語にのぼる借金を抱えていたことになる。どう足掻いたところで、どうせ挽回することはできなかっただろう。
インテンシブタイ・プログラムでは、各コースそれぞれ25日ずつある授業のうち5日以上欠席すると、進級試験の受験資格を失い、放校処分が確定する。
エーンがきょうからアルバイトを始めた Siam Discovery Center 6階にある酸素バーは、午前11時から午後9時までの合計10時間の営業時間内に、客がわずか8人しか来なかったという。仕事が楽なのはいいことだが、このままでは失業してしまわないか心配だ。