素晴らしき一党独裁政治

「一党独裁は、不要な国内対立を未然に防ぎ、効率のよい経済運営ができる点で、多党制より優れています」 (ベトナム:ベトナム共産党)

東南アジア研究科のクラスメイトたちの顔ぶれは国際色あふれている。午後の講座「近代東南アジアの植民地化・民主化・民族主義」には19人の学生が出席し、その内訳はタイ人10, 日本人1(僕), フィンランド人1, 中国人1, ベトナム人1, ラオス人1, カンボジア人1, ミャンマー人1, フィリピン人1だった。そのうち共産主義国から来ている学生は奨学金を得いていることもあって、英語力でほかの学生たちを圧倒している。

きょうのテーマは、列強による植民地化と第2次世界大戦による東南アジア諸国への影響だった。話題が戦後相次いだ民主/共産革命の意義へ移ると、一党独裁制の是非について議論された。そこで共産圏から来た学生たちが持ち前の英語力を駆使してその優位性を唱え始めた。

「わが国はビルマ社会主義計画党による独裁下のもと、人民が一致団結して国家の発展に尽力してきました。ところが1988年以降さまざまな政党が誕生したことで、人民はどの政党を選ぶべきか混乱し、ついには国内に深刻な対立が生じました。ですから、いっそのことひとつの政党にすべて委ねてしまうのが一番ではないでしょうか?」 (ミャンマー:軍事政権=国家秩序回復委員会)

「一党独裁は官僚による腐敗を招きます」(中国:中国共産党)

クラスメイトたちの主張は、各国の政府がいずれも公認している歴史教科書に書かれているような内容をそのまま反芻しているに過ぎなかった。そこで僕は思い腰を上げて反論を試みた。

「特定の政党が強大な権力を得ると、国民の権利は厳しく制限され自由な研究の妨げになります」

社会科教育は恐ろしい。なんと自分自身も中学校の社会科で習った内容をそのまま反復して主張してしまった。なんとも釈然としない。社会科教育が国内世論に与える影響力の強さについて思い知らされた。議論はその後も継続されたけれど、隣席にいたアメリカ生まれのタイ人学生とのあいだでは「やっぱりアメリカ式の2大政党制がバランスがとれてて良いよね」という結論に落ち着いた。

王政を否定できないタイや、社会主義を否定できないその他の発展途上国では、あまりにもタブーが多すぎるので、政治学や史学の研究には向いていないかもしれない。

ところで、きのう6時間もかけたプレゼンテーションの準備は水泡に帰した。きのうの準備に参加しなかったフィリピン人学生が、突然首を突っ込んできて内容を変更しようと言い出したからだ。これに抗弁するための英語力がなかったため、なんとももどかしい思いをした(もちろんタイ語による非難が本人の目の前で半ば公然と飛び交った)。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。