あるバンコク大生による大学批評

サムットプラーガーン県サムローングにある大部屋カラオケ屋で14日の午前零時を迎えた。

「6年前には『携帯すら持てないようなヤツは友達も作れない』と言われていたが、今では『クルマすら持てないようなヤツは友達も作れない』と言われるようになっている。だからグルングテープ大学のランシット校舎でも、誰もが流行に乗り遅れまいとこぞってクルマを購入している。だけど、どんなに頑張っても数万バーツのオンボロ中古車しか買えないという学生も少なくはないから、駐車場から数百メートルのところにある正門付近ではエンジントラブルを起こして動けなくなっているクルマをよく見かける」

この友人は話を面白可笑しくするために、物事を誇張して伝え、自分とは無関係の人々を完膚なきまでこき下ろすという悪いクセがある。だから日頃からこの友人の話を話半分で聞いているが、なにか強烈なコメントが得られるのではないかと思って、今晩は各大学の評判について尋ねてみた。

――ホーガーンカータイ大学は本当にサイコーだ。みんな可愛いしファッションも斬新。君もそう思わないか?

「そんなにイイかあ?ホーガーンカータイ大学といえば、都内でもっとも多くの現役娼婦が通っている大学って言われてるよ。学生寮の界隈をクルマで徘徊しているだけで日替わり弁当が楽しめるんじゃないか?」

この友人が通っているグルングテープ大学は、ホーガーンカータイ大学とはライバルの関係にある。さらにこの友人が通っている経営学部に限って言えば、ホーガーンカータイ大学に対しては明らかに劣っている。そのような事情もあって友人はこう言ったのかもしれないが、日頃は無口な友人の彼女もこの点に関しては特に賛成していたから、あながち事実無根の作り話でもなさそうだ(実際に学生売春が盛んなことで知られているのはラーチャパット大学スワンドゥスィット校・スワンスナンター校、トゥラギットバンディット大学、スィーパトム大学、サヤーム大学、ホーガーンカータイ大学の順)。

――じゃあ、ラングスィット大学なんかいいんじゃないか? ものすごい数の学部があるし、私立大学唯一の医学部まである。

「ラングスィット大学はグルングテープ大学の授業について行けなくなった学生の転出先として知られている。あそこには1年に4学期もあるだろう? たしか2年半もあればカンタンに学士号がもらえるはずだ。大量の単位を短期間で取得した学生が、4年次になってグルングテープ大学に復学して学士号を手に入れるというケースも多い」

――スィーパトム大学はどう? なんか個性的な学生が多くて面白そうなイメージだったけど。

「ってゆうか、それ以前にあれは大学と呼ぶにふさわしいのか? まったく授業に出席しなくても、すぐに卒業させてもらえそう。将来『屋台の物売り』になるために学士号を取りに行くようなもんだね」

そこまでヒドい言い方をしなくても・・・・・・と思いながらも、興味本位につぎからつぎへと立て続けに大学の評判を聞いていった。そんな話をしていたところ、友人は「グルングテープ大学はハイソな学生が通っているイケてる大学」で、自分もそのハイソな学生のひとりだと主張し始めた。

「実は一見しただけでは一般庶民のように見えるウチにも、超高価なプラクルアングがあるんだぜ。俺の兄貴分でもあるプラクルアング協会の会長のお墨付きだ」

話があまりにも飛躍しすぎている。大富豪の趣味の世界であるプラクルアング協会の会長が、こんなフツウの現役学部生を相手にするはずがない。少し灸を据えてやろうとすぐに追求にかかった。

――俺が先生と呼んでいる人がチョークチャイスィーでプラクルアング屋を営みながら、『クラングプラクルアング』という月刊プラクルアング情報誌を発行しているんだ。聞くところによると、彼はどうやらこの世界では第一人者らしいから、今度そこに持って行って一度鑑定してもらようよ? ほら、もし万一それが贋作だったら、将来的にも当てが外れたりして困るだろう?

そういってみたところ、友人は黙り込んで話をウヤムヤにされてしまった。つい先日にも「俺の父は内務省のナンバー3」という話があって、僕は中央政府と地方行政機関の役割について話して、友人の父親が担当している部局が内務省にはないことを明らかにしたばかり。そのときにも「友達には法螺を吹くな」とキツく釘を刺しておいたはずだが、あまり効果はなかったようだ。

ちなみに冒頭にある友人の言葉だが、僕の周囲ではいまのところ「クルマすら持てないヤツは友達も作れない」というようなことはないし、大半は公共の交通機関を使って通学している。また、各私立大学では「自らの財産をひけらかして、教育機関に経済階級的な概念を持ち込むのは、学生として好ましくない振る舞いである」といった啓蒙活動がさかんに行われている(ただしこの通告は完全に無視されている)。

法定閉店時間の午前2時に大部屋カラオケ屋から引き揚げ、正午前に起きて午後の東南アジア舞台演劇論に出席し、サヤームにある Starbucks Coffee へ行って明日提出のペーパーを書き上げた。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。