タイにおける商業・金融の中心地であるスィーロム通りの一帯は、日が暮れるとともにワイシャツを着たタイ人の会社員たちが姿を消し、代わって娼婦たちが露出度の高い服を着て通りを闊歩する性風俗の街へ一変する。歩道には、外国人観光客を相手に模造品のブランドバッグや海賊版の CD などを市価の数倍の値段で売りつける露店が軒を連ね、同性愛者や男娼の姿も見られるようになる。
珈琲屋 Coffee Society は、そんな通りの一角にある。心地よい音楽が流れる薄暗い店内には、無線 LAN サービス(1分1バーツ)があり、ノートパソコンを利用するためのプラグソケットも用意されている。偶然そこに居合わせたクラスメイトからインターネットを無料で利用するためのパスワードを教えてもらい、最強の自習室環境を手に入れた。
ただし、この珈琲屋には無視できない致命的な欠点もある。同性愛者たちの発展場として知られているスィーロム2街路から4街路にかけての場所に立地しているため、男性同性愛者の客が次から次へとやって来て、トイレがある3階では同性愛者のカップルたちがソファーに寝っ転がっては仲睦まじそうにしている。それに、西洋系外国人たちがナンパをするときによく使っている「見つめ攻撃」(興味があることを他者に示すためのサイン, 僕たちはそれを「モーング」と呼んでいる)にさらされるため、この店に居続けるためにはそれらをやり過ごせるだけの強靱な精神力が要求される。
そうは言っても、ヂュラーロンゴーン大学のちかくにインターネットを使いながら深夜まで自習できる落ち着いた空間がほかにないから仕方ない。