タイの貸マンガ本屋で見世番を体験

タイ人に読まれているマンガ本は、日本語からタイ語に翻訳されたものが大半をしめている。欧米のコミックが一話完結型の子供向けであるのに対して、日本のマンガは何年にもわたる壮大な長編の物語で、大人でも楽しめる内容になっているため、世界中の人々から幅広い支持を得ている。

いまから8年前の1992年まで、タイでは日本のマンガ本が著作権者による許可なく無断で翻訳・販売されていた。当時、世界的に人気を集めたドラゴンボールの海賊版が複数の会社によって何種類も出版されると熾烈な価格競争が起こり、最後には利益を度外視した叩き売りも同然の状態になった。これに業を煮やしたタイの出版社が版権元の集英社と直接掛け合って、タイにおける独占的な販売権を獲得したといわれている(それまで集英社が外国の出版社に対して販売権を認めたことはなかった)。このような経緯から、タイで出版されているマンガ本は、版権元と提携しているタイの会社によって著作権が管理され、合法的な手順で販売されている。

タイ語に翻訳されたマンガ本は、原作のニュアンスを変えることなく、おおむね正確に翻訳されている。タイ語には縦書きがないため、登場人物の吹き出し部分が横書きで表記されており、ページ繰りの都合から図柄を左右に反転した状態で印刷・製本されている。価格を抑えるためにわら半紙が使われていて、文庫本サイズのマンガ本なら35バーツぐらいで売られている。

きょうはサムットプラーガーン県で貸マンガ本屋を営んでいる友人の店へ遊びに行った。およそ2,000冊の蔵書があって、近所の子供たちを相手に定価の1割の料金(35バーツで売っている本なら3.5バーツ)で貸し出している。

最近、友人たちのあいだで時代劇調のタイ語表現が流行っている。そこで、架空の中国王朝が舞台の少女マンガ พลิกตำนานมาพบรัก(ふしぎ遊戯)の第5巻を書棚から手にとって、貸出カウンターにある安っぽいプラスチック製の椅子に座って読み始めた。

この貸マンガ本屋の前にある街路には、庶民の足であるサームロー(自転車タクシー)やソングテオ(トラックの荷台タクシー)がひっきりなしに行き交っている。付近にはダルナラット小学校やダーンサムローング中等教育学校があるほか、店の裏手に大規模な住宅街や女子寮があるため、商売をするうえでの立地条件も悪くない。

もっとも客が多い時間帯は午後3時から午後6時までの3時間で、その大半は学校帰りの中等教育学校の生徒(中学生や高校生)たちだった。そして、そのほとんどが、貸出カウンターの椅子に座って少女マンガを読み耽っている僕を店主と間違えては次から次へと話しかけてきた。ちょうど貸マンガ本屋の店主が軽食を買いに出かけていたため、僕は客から言われるままにレンタル料を受け取り、貸出台帳にマンガ本のタイトルと客の会員番号を書き入れて貸し出していった。店主が戻ってきてからも、午後10時までずっとタイ語に翻訳された日本のマンガ本を読み続けた。

その後、友人と午前3時までウイスキーを飲んだ。

ABOUTこの記事をかいた人

バンコク留学生日記の筆者。タイ国立チュラロンコーン大学文学部のタイ語集中講座、インテンシブタイ・プログラムを修了(2003年)。同大学の大学院で東南アジア学を専攻。文学修士(2006年)。現在は機械メーカーで労働組合の執行委員長を務めるかたわら、海外拠点向けの輸出貿易を担当。