ヂュラーロンゴーン大学からの帰りに、タニヤ通りにある日本料理店へ行って友人と夕食を取ってから、アマリアトリウムホテルのパブ Mingles のハッピーアワー(午後11時半~午前零時半, カクテル Buy One Get One Free)が始まるまでの時間を日本人向けのカラオケスナックで過ごすことにした。
「イラッサイマセー。サンガイヘドーゾー」
タニヤ通りを歩いていると、ホステスたちから怪しげな日本語で何度も声をかけられた。路上での呼び込みは、警察の指導もあってしばらくのあいだなりを潜めていたが、どうやら最近になって復活したようだ。呼び込み係のホステスの手には、値段が大きく書いてあるチラシが握られていた。
ドリンク飲み放題、全料金コミコミ1時間440バーツ。
僕がバンコクに来た3年前、日本人向けの歓楽街「タニヤ」にあるカラオケスナックは、それこそ贅沢の代名詞だった。しかし、いまではフツウのカラオケボックス(ビッグエコーは1部屋1時間あたり400バーツ)と大して変わらないほど価格破壊が進んでいる。日本で毎日のようにカラオケスナックへ通い続けていれば家計への負担も無視できないものになるが、ここバンコクではカラオケボックスの2倍程度とそれほど高くない。関係者によると、平成不況に端を発する日系企業による経費節減の煽りをモロに受けて、厳しい価格競争にさらされているという。
娼婦にハマってバンコクに移り住んできた日本人が、「趣味と実益を兼ねる」で始めたような日本人向けの性風俗店は、どこも厳しい経営を強いられている。
「裕福な日本人さえ相手にしていれば、相対的に貧しいタイ人を相手に商売するより効率よく利益があげられる」
このような発想は、まさにバンコクに来たばかりの日本人が陥りやすい勘違いだ。日本人の在住者が少なかった1990年代の前半ぐらいまでならそれでも通用したのかもしれないが、すでに多くの日本人資本の商店や飲食店がしのぎを削りあっている現在のバンコクで通用するはずがない。こんなに安直なビジネスモデルで成功できるのなら、今頃バンコクの日本人社会はゴールドラッシュでウハウハになっているだろう。
タイに住んでいる日本人の家計に占める娯楽遊興費の割合は高い。しかし、金額としては高が知れているし、事業としてやっていくにはここバンコクにおける日本人市場の規模はあまりにも小さすぎる。今回の性風俗店経営の例ひとつをとっても、小さなパイを奪い合っている日本人向けカラオケスナックはどこも無益な低価格競争を強いられているのが実情であり、タイ人向けのカラオケスナックよりも質の悪い安価な労働力を使っても利益が上げられないという深刻な悪循環に陥っている(タニヤ界隈に店舗を構えている日本人向けカラオケスナックは相当数が赤字経営を強いられている)。
今晩、タニヤにあるカラオケスナックをひととおり見て回ったところ、低価格戦略(飲み放題1時間444バーツ, 500バーツ, 600バーツなど)をとっている店は、なんとか数組の日本人客を確保しているようだったが、そうでない店は、週末の夜にもかかわらず、どこも閑古鳥が鳴いていた。そんな彼らの足元を見て、僕たちは言い値600バーツのところを一声で500バーツまで負けさせた。
個人的には、激しい価格競争にさらされるだけで、ろくに利益も上げられないようなビジネスに興味はないが、店を手放したがっているカラオケスナックの経営者なら探せばいくらでもいるだろうから、興味のある向きは買い取って勝ち組のカラオケスナックを目指してみるのも良いだろう。
僕たちはまともそうなカラオケスナック数店をハシゴして、タイ語曲を歌って午後11時までの時間を過ごしてから、アマリアトリウムホテルへ向かった。